【Z・特別講義16】
[ 安定化電源の深堀 ]
第16回 寄稿
13回の寄稿からエネルギーの供給と言う視点から解説を試みておりますが、今回は安定化電源
の 深堀と題して、音質との絡みを解説しております。
信号増幅回路を駆動する場合、電流エネルギーを如何に低損失で供給するかが、究極の設計
的要素だと・・その一端を担う重要な要素が電解コンデンサを含むデカップ回路が重要になり
ます。 同時に高周波インピーダンス特性が音質改善の鍵を握る事になります。
小電力系への給電と音質の関係を深堀してみましょう。
今回もAudioを趣味として来られた方のご意見を、一部抜粋してご紹介致します。
(ご投稿ありがとうございます。尚勝手に転載させて頂く非礼をお許し下さい。)
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ご意見
私は、一般的に言われる真空管アンプの音と言うのは、トランスの音を聴いているのではないか
と考えています。 スタックスの真空管ドライバーで聴くコンデンサ型ヘッドホンでは歪の
少ない高分解能の音を聴くことができます。
出力トランスが無い回路で、まさに真空管の音を直に聴いていると思いました。
また、某所で聴いた真空管アンプはトランスに優れた材料を使っているとのことで、従来の真空
管アンプのイメージとは違う歪み感のないストレートな音と感じました。
トランジスターアンプでは、A級動作のアンプは良い音でトランジスターアンプの音と言う悪い
イメージは感じません。 しかし、電力消費量が多く現在は使うことが少なくなりました。
D級アンプもイメージが最近は随分良くなった様に感じます。
安価なデジアンを数機種使ってみましたが、ステレオ誌の付録のデジアンが思っていた以上に使
えています。 むしろ、良くできた真空管アンプの音に近いのではないかと思います。
スピーカーは、ダイヤトーンのP-610FB,DB,MBという8Ωの復刻版の物を使っていますが
大音量でない限り十分に音楽が聴けます。
スピーカーの能率も90dB~92dBあり現在の低能率のスピーカーとは違うと思いました。
真空管アンプもそうですが、やはり優れたスピーカーの存在なくしては真価が発揮できないと
思っております。
貴重なご意見ありがとうございます。
コンデンサ型ヘッドフホンを真空管でドライブする音質は、ある意味で真空管の性能を確かめ
る究極の姿であろうと、爺も感じます。 何とも言えない心地良い音に桃源郷を感じる次第。
出力トランスを排除し、真空管自信の素子性能の究極の姿を聞いているとのご指摘は、まったく
その通りであり、Audioに携わる者としての感想は、一つの到達点だと観じます。
半導体式AMPで、ここまで到達する事は繰り返しになり恐縮ですが、電流伝送上の理論からも、
かなり困難な表現領域となると観じます。 但し残念ながら、コンデンサ方式はハイパワー再生
には向いておらず、当面この形がAudioとしての、最高回答の一つであろうと考えます。
Audioは、まず優れたスピーカー有りき・・とのご意見にも全面的に賛成です。
爺はP-610A(アルニコ磁石品)との出会いが無ければ、この業界に足を踏み入れる事は無かった
と言う曰く因縁があります。 このSPは当初BTS規格で、NHKのモニター用600Ω仕様で
トランスを背負っておりましたが、これを外し民生用として16Ω品を世に出しました。
当初NHKニュースのアナウンスの音声をモニターする目的で開発されたそうですが、正しくその
場所に人間が居て、普通に会話している様な錯覚を覚えた程の出来栄えに、大きな衝撃を受けた
者です。
とまれ、Audioは優秀なSP次第である・・と心底感じます。 さような次第で爺がALTECの
同軸2-Way方式を信奉する理由は、ここに遠因があります。
近年やたら口径が違うSP-Unitを増設し、音質をまとめるのに四苦八苦しているのですが、同じ
放射面から、低音も高音も出せる真に優れたUnitを探すと、今の形式に到達します。
拙宅のSP-Unitは1956年製造の品物ですが、音質は個人的には これで十分だと思います。
重低音を追及すると、これも破綻が来ます。(Wooferは38cmですが・・)
重低音に加える形で、上側に構築する音質バランスは、本当に困難だとつくづく感じます。
つまり、重低音を再生するなら、同時に超高音域を再生する必要があると、今までの体験から強
く感じます。 人はエネルギーの上下再生帯域のバランスで聴き、良否を判断する動物である
らしいのです。 その意味で上記コンデンサヘッドフォンの音質は、一つの到達点だと考えます。
(ヘッドホンでの重低音再生は、ある意味で容易なのです)
D級の中パワーAMPで、且つSP-Unitの効率が90~94dBの品物を駆動する場合、一つの到達点
が形成できる筈だと爺は確信しております。理由は、D級はそもそも給電源インピーダンスがアナログ比で圧倒的に低く設計する事が可能で、
既に解説しました如く、給電源の電流供給能力を十分確保する設計であれば、SP-Unitの高効率
と相まって、優れた再生音質を提供出来る筈です。
同軸2-Wayをベースに、これに音波伝上の波面に考慮したスーパーTweeterと、重低音再生Unit
を能率を94dB次元で合わせるシステムが出来た暁には、感動を呼べるシステムとなる筈・・と
勝手に夢を語っております。 これを駆動するのはD級AMPであり、この方式は元々FET素子
で駆動する方式がマッチします。 素子面でも理に叶っております。
炭素系パワー素子が実現すれば、まだまだ駆動インピーダンスは下げる事が可能です。
それに比例する形でPWM周波数を上げて信号精度を向上させれば、Audioとして、現在の
アナログ式AMPを完璧に上回ると確信します。
その先ぶれがテクニクス・ブランドに見られます。
既に1MHz以上の帯域で変調する30WクラスのAMPも販売されております。
中出力なら、50Wもあれば十分過ぎるパワーでありましょう。 (音圧94dBが前提)
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ご意見
アンプ全般について大変解りやすく説明されておられ、共感する部分も多々あります。
今年修理したLUXの真空管パワーアンプについて、スピーカー実負荷の周波数特性をとってみると、ドンシャリになり、柔らかい音というより、華麗でダイナミックな音に聞こえました。
プリアンプも同様な音質である事を確認しております。
私見ですが、アンプでは、高調波歪みよりも、クロストークの方が音質上有害と仮定し測定した結果、扱う電力に比例して増えるという事を確認しております。歪率特性に、隣chへの漏れ量が計測されず、こうした結果が今まであまり公表されていない事に疑問を感じております。半導体アンプは、電源電圧の変動で、雑音を出しやすい事は、過去の自作で承知しております。この種の雑音は、NFBでは低減されずお困りさんでした。
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このご意見にも素直に耳を傾けたいと思います。
昔の真空管AMPを高効率SPで是非聞いて頂きたいと思います。 そして現代の低能率SPとの
比較で、是非その音質差をお確かめ下さい。 爺はこのメーカの3極真空管式AMPと上記P-610A
の組み合わせで学生時代に聞き、店先から離れる事が出来ず、嵌った次第です。
ともかく店先で、全身が硬直したのを今でも思い出します。 俺の職業は決まった・・と!
歪よりクロストークが重要である・・との声は、まったくその通りでして。
個人的にも、聴感と物理データの関係で申せば、ご指摘の通りだと観じます。
歪率は、パワーAMPでは0.1%を切れば、この性能を追求してもあまり意味が無いと観じます。
クロストークには研究論文が沢山存在します。 曰く左右チャンネルのクロストークは25dBを
確保しておれば、ステレオ感は得られる・・云々とあります。
但しこれは、発電機側のトランスジューザ内部での話であり、カートリッジ内部での
クロストークを研究したDataです。 近年信号がデジタル化され、クロストークも-80dB次元
で性能を云々する時代となりました。 旧アナログ時代の器機は、そもそもLPレコードのS/N
は65dBが限界でしたから、それ程深く追及されませんでした。
デジタル化でS/Nが90dB次元を超える時代から、追及する物理性能の次元が大きく上がり、
現在1kHzで、チャンネル・セパレーション 90dBは、当たり前の時代です。
ここで目を離してはならないのが、ダイナミックセパレーションの概念です。
即ち、エネルギーが激しく変化した場合の、左右チャンネルの分離特性です。
単一信号をスイープして、Audio帯域でセパレーションを確保した場合でも、左右チャンネル間
でエネルギーが複雑に変化した場合、実装設計が貧弱であれば聴感上は激しく劣化します。
その代表例が、給電源の変圧器内部と整流回路に起因する、等価給電源インピーダンスRsの存在
です。 既に解説しました如く、このRs成分が壁となって150W以上の領域では、お互いに
ダイナミックに邪魔し合い、混変調成分となり音質劣化を起こすのです。
拙宅は真空管式AMPですが、それでもモノーラルAMPで駆動しております。(Max 40W)
実は、このRs成分以外に大きく影響するのが、左右チャンネルの電磁的・静電的結合の問題なの
です。 そのウイークポイントは、パワーを扱う全ての部品間の結合です。
対策として、一つのシャーシ上に電源トランスを2台投入した、ツイン・モノーラル・コンスト
ラクションなる製品もありますが、これでも完璧では無く、徹底するならシャーシから完璧に
分離すべきでしょう。
変圧器を分けても同じシャーシ上なら、お互いに電磁的に結合する事は避けては通れません。
小信号系での問題の究極は、ボリュームの存在です。 機械式アナログボリュームでは、この
クロストークが問題となります。 つまり左右チャンネル間で信号が一番接近する部分が、
このエリアとなり、左右間にシールドを設ける等の対策を施しますが、配線も互いに接近します
ので、実装設計は細心の注意が必要となります。
拙宅のチャンデバは、小信号を扱う処は同一シャーシ内部に2モノーラルコンストラクションの
構成としております。 理由はマスターボリュームを構成する上で、プリAMPのモノーラル化が
アナログ信号処理では出来ないからです。
これが、既にご紹介したフルデジタル式ボリュームなら、信号処理でも完璧なモノーラル化が
可能です。 しかしパワーAMPに比べ、その影響度が低い故に小信号系では、ステレオ構成が
一般的です。 (小信号系でも高級品はツインモノーラル構造を採用します)
拙宅の自作チャンデバの写真を下記にご紹介します。(細かい不出来には目を瞑って・・!笑 )
給電回路系は前回ご紹介した、図16-10が基本となっております。
ユニバーサルボード上に乱暴に組み立てております。 きちんとパターン設計し組み立てれば
更に音質向上すると思いますが、生来の不精者で・・(笑)
トップケースを付けると、音質上は雰囲気感が失われますので、塵埃防止に不織布を回路の上に
のせて運用しております。
回路全体は別途ご紹介の予定です。 お楽しみに??
このチャンデバを経由してWooferとTweeterを駆動しております。
細かく言えば、給電源ボード上に左右分離用シールド板が無い・・(笑)
配線は一応OFCを使っております。(シールドなし)
定電圧回路には高輝度LEDを使っており、点灯しております。
小さい緑色は ERO コンデンサで、背中が白いコンデンサは信号処理用コンデンサです。
小信号の割には、やたらと電解コンデンサが多い(笑) 信号線も単線撚り合わせで処理。
入出力信号 Pin 端子周辺は、全面に銅箔を貼り込んであります。
スターボリュームはSW式アッテネータ。
VRノブはアルミ削り出し品。
軸は銅ワッシャ経由で固定。
電源SWはブレーカでFuseを省略した構成。 EMI対策した3端子
受電ソケットを採用。シャーシGNDはここです。
コイルはコモンモードノイズ除去用で挿入。 シャーシとボードの隙間
は4cmを確保。(アルミシャーシ)
変圧器は市販用一般品で、シャーシとの間にクッション材を敷いてあります。(振動緩和策)
シャーシとシャーシの結合部には、銅箔を間に挟んで結合してあります。
又、電源ボード下部と信号処理ボード下部には、全て銅箔を貼り込んであります。
Audioを自作されるなら、プリAMPも2モノーラルコンストラクションがお薦めです。
又、OP-AMPを使う場合8-Pin構成の2個入り品を、左右チャンネルに使う例がありますが、
これはお薦め出来ません。
この作例から分かります通り、ステレオ回路の機械式音量調節器部分の実装が難しい次第です。
左右チャンネルの間にはシールド板が挿入されており、更に全体をシールドする構成になって
おります。(この部品が最も高価・・ウン万円 笑)
業務用で使うミキシングマシンは、外見はスライド式ボリュームですが、内部はベルトドライブ
の回転式機械ボリュームが大半を占めます。 且つ左右チャンネルは厳密にシールドされており
ます。
このダイナミックセパレーション(混変調)の問題は、小信号エリアではあまり問題にならず、
(業務用大型ミキシングマシンでは問題になります)
もっぱら大電力AMPで問題となり、又同一チャンネルでも、小信号エリアと大振幅信号間との
結合が問題となります。 ステレオ信号では、大振幅回路間での左右結合が大問題となります。
ともかく回路設計がいくら優れていても、実装設計が不十分であれば、所望する性能は得られず
結論は、ハイパワーAMPはモノーラル化しか有効な手段が無い訳です。
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16-7.三端子レギュレーターの使いこなし
三端子レギュレーターの安定化電源回路は、発振しやすいと言う特徴を有します。
この欠点を良く知った上で使う必要があります。 この発振防止の手法は、入出力端子とGND
端子間にセラミックコンデンサを挿入します。(半導体メーカの指定容量値を挿入します)
これは内部回路の増幅度を、高域で落としてNFループ内で位相回転しても発振させない処置で
す。 このセラミックコンデンサには温度特性が必ずあります。
温度変化で容量変化を起こさないタイプを選定する必要があります。
繰り返しですが、セラミックコンデンサは交流電圧で容量が変化しますので、信号が通過する
回路上には絶対に使えません。(容量変化=歪に化ける)
ここでは、三端子レギュレーターを使った各種応用回路をご紹介します。
R2はQ1の絶対最大コレクター電流以下で設定します。 Vout端子を短絡すれば、Q1がカット
オフになり保護されます。一方三端子レギュレーターの場合は、内蔵の保護回路が動作し同様に
短絡電流から回路を保護する動作となります。
この応用例は、誤差増幅にOP-AMPを使うのですが、電源供給が単電源方式である為に、三端子
レギュレーターの電圧と、OP-AMPの出力飽和電圧の合計以下の電圧には、Voutを制御する事が
出来ません。
5)トラッキング型安定化電源―例1
三端子レギュレーターを1個使った±電源のトラッキング型安定化電源の例
D1は電源投入時Q1のベース・エミッタ間に逆バイアス電圧がかかる事を防止する目的です
負電圧出力は下式で求める事が出来ます。
正負電源用三端子レギュレーターを使った、トラッキング電源回路の構成です。
R1=R2に構成します。 更にR3の値は、R1//R2 (並列抵抗値)になるように構成します。
これはOP-AMPのバイアス電流誤差をキャンセルする為です。
三端子レギュレーターの発振防止用のセラミックコンデンサは、各々の素子の至近距離に
C1からC4を実装します。
回路図を描く場合、常に共通インピーダンスの影響を最小にするような描き方を推奨します。
又電圧・電流の基準点は何処か? はっきり分かるような描き方を習慣付ければ、後行程の
CAD設計者に、回路設計側の意図が正しく伝わります。 設計した本人も設計時の意図を確認
する時に有効となります。(設計時に自分が考えていた次元)
エネルギー伝送では、GNDの基準点を回路図上で分かるように描くと良いでしょう。
16-8.三端子レギュレーターは何故 発振し易い?
図16-9以降の回路例を改めてご覧ください。
これらの制御方式には、OP-AMPが使われております。
三端子レギュレーター用半導体の内部回路も、基本的にはOP-AMP形式の変形回路です。
基本的には元々OP-AMPは発振しにくい回路構成になっておりますが、三端子レギュレーター
用の増幅回路は、完全なOP-AMPとは申せず、下記理由で発振の危険性を伴います。
16-8-1) 増幅回路にNFをかけると何故発振する?
この寄稿でも、最も重要な解説エリアになる、増幅回路の発振問題を扱います。
NF(negative feedback)について
第一回寄稿でNFを何故かけるか? その効果は?・・について記述しました。 電気的な
物理性能には、数々のメリットがありますが、逆に大きなデメリットもあります。
それは発振の危険性を常に伴う事です。 故に確実にこれをコントロールする必要があります。
増幅回路の電気性能特性で、常に検討されるのが増幅度と周波数特性です。
真空管と半導体の性能差について既に記述して来ましたが、ここからは信号増幅系の位相特性
を扱います。
まず結論を先に申しますと、増幅行為には信号伝達上で、周波数が高いエリアでは必ず位相回転
が発生し、この位相が-180度回転した処の周波数で、増幅度があればNF動作にはならず、
正帰還となり増幅回路が発振器に変化します。
一般的に信号発振器はこのような理屈で動作しますが、発振器を意図して設計されてない、通常
の増幅器では、面倒この上ない症状となります。 空間で正帰還を起こすとハウリング現象と
なりますが、理屈上はまったく同じです。(マイクロフォンをスピーカーに向けると発生)
以下信号伝送上の周波数・振幅・位相の関係を学びましょう。
16-8-2) 周波数位相特性の基礎
ここで重要な事は、増幅度の周波数特性と同時に位相特性を同時に考える必要があります。
位相特性の簡単な例を図16-25に示します。 例えば抵抗器とコンデンサがシリーズ(直列)
に接続された回路があった場合、コンデンサの両端に表れる振幅・位相特性は下記のような関係
になります。
Vin端子からアナログ信号を入力し、Vout端子から信号を取り出した場合、Vout端子に於ける信号の
振幅周波数特性と位相特性は図16-25のような関係になります。
これは、スピーカーネットワークを形成する回路と同じです。 このような構成を一次ローパス
フィルター回路と申します。 信号伝送系に増幅用素子を含んでいないので、パッシブ型一次
ローパスフィルターと呼びます。 半導体など増幅素子は能動素子と呼びます。
振幅量が-3dB低下した周波数で位相は-45度回転します。この周波数が遮断周波数です。
この周波数より高い側で周波数が2倍になると-6dBの関係で減衰。
周波数が2倍で減衰量がー6dBなら、オクターブ-6dBの変化と表現します。
図16-25の振幅対周波数特性は、コンデンサの固有値に従って両端抵抗は、-J1/ωCで変化
しますので、理想コンデンサの場合は、高い周波数で抵抗値が下がり続けます。
即ち、振幅は周波数が高くなればなる程、減衰が続きます。
一方位相対周波数特性は、振幅が-3dB低下した段階で位相が-45度回転し、その後周波数が
高く変化すれば、コンデンサ容量の定数に応じた周波数で-90度回転して停止し、周波数が
上がってもこの状態を維持します。
● 遮断周波数 ●
このように振幅が-3dBで位相が45度回転した周波数を遮断周波数として扱います。
つまり信号伝送の電力エネルギー量が半分になる周波数と記憶すれば良いでしょう。
通常増幅器の信号増幅可能限度を周波数軸方向に評価する場合は、この周波数ポイントで
評価します。
上記回路の遮断周波数は、下式で求める事が出来ます。 伝送上の重要式です
遮断周波数fc = 1/2πCR π・・パイ
16-8-3) 位相が180度変化する回路
図16-24の回路を2段シリーズに接続した時を考えます。 この場合上記遮断周波数fcを意図
してずらした・・と仮定します。 ここではR2・C2の組み合わせに於けるfcを高い周波数に上げたと仮定して考えてみます。
その時の信号伝達特性を図16-27に示します。
図16-27の解説
このように第一遮断周波数を持つフィルター回路と、第二遮断周波数を持つフィルター回路を
シリーズに接続すれば、必ず位相は180度まで回転します。
第一遮断周波数と第二遮断周波数の隙間fd値がお互いに接近する場合、振幅特性のイメージ
は、図16-27の如くとなります。 第二遮断周波数の処では、振幅が-3dB低下すれば位相は、
-135度回転し、その後この回路では位相が-180度回転して終了します。
減衰量は、第一遮断周波数から第二遮断周波数の間では-6dB/Octで減衰しますが。第二遮断
周波数から上の帯域では、フィルター2段の積み重ねで、減衰傾斜が-12dB/Octに変化します。
この第一と第二遮断周波数の隙間fdの値が接近する場合は、周波数方向で更に位相回転が早く
-180度に到達する事になります。 少し専門的ですが、増幅器の中では、このfc2とfc1の比
をスタガー比と申します。 この比率がAMP設計では特に重要となります。
更に極端な場合、このfdの値が1の場合即ち、第一と第二の遮断周波数が完全に一致した場合
を考えてみましょう。 この場合も同様に振幅が-3dB減衰した周波数で、位相は45度回転
しますが、今度は周波数に対する減衰率が-6dB/Octから、2倍の-12dB/Octに変化します。
減衰量が多い分、当然早く位相が-180度まで回転します。
この位相が回転する事を、位相歪として設計上は扱います。
ここまで理解出来た処で、増幅器の位相と振幅特性を考えてみましょう。
OP-AMPと、Audio専用に考えたAMPでは性能が違うか? と言うご質問が沢山あります。
この答えが、上記に解説しました中に包含されております。 三端子レギュレーターは発振し易い・・と言う根本的要因もこの次元で考える事となります。
16-8-4) OP-AMPの特徴
汎用OP-AMPを考えてみましょう。 図16-20を再度ご覧ください。 この回路のOP-AMP
は出力側からマイナスの入力端子に向かって、全帰還がかかっております。つまりOP-AMPで
増幅された全てのエネルギーが、帰還されております。 これを全帰還と申します。
増幅した全エネルギーを全て帰還しても何故回路が発振しないのでしょうか? それは、位相
回転した時には既に増幅器としての、増幅器機能が存在しないからです。 これが答えです。
OP-AMPの増幅度と位相回転の関係を図16-28に示します。
図16-28の解説
OP-AMPの大きな特徴は、直流の増幅度が大きい事が上げられます。(例:+90dB)
しかし周波数方向では高域に於ける増幅度は、図16-28に示します通り第一遮断周波数を過ぎ
たら-6dB/Octで減衰する様に設計されております。 この第一遮断周波数は、せいぜい
10Hz程度が一般的です。
OP-AMPもまったく同じで、第二遮断周波数を過ぎると、その上側の周波数帯域では、
-12dB/Octで振幅は減衰します。 従って、高い周波数帯域での増幅度は稼げないのが特徴
です。 しかし第二遮断周波数付近では増幅度が無い為に、位相が180度回転してもまったく
発振しないのです。
即ち、第一と第二遮断周波数の隙間であるfd値を大きく取るように設計されております。
もっと正確に申せば、第一遮断周波数を思い切って下げる事で、fd値を沢山取るように設計されております。 既に解説しました通り、スタガー比を大きく稼ぐ事で、回路の発振防止効果を狙った増幅方式がOP-AMPの正体です。 (スタガー比を小さくすると位相回転が激しくなり
回路設計上の制御が困難になります)
以上の理由で、図16-20の例の如く出力を全て帰還エネルギーに回しても発振しない訳です。
図16-28から分かりますように、直流帯域付近では巨大な増幅度が得られる代償として、例え
ばAudio帯域の20kHzでは増幅度が稼げない事を意味します。
例えば遮断周波数が10Hzと仮定した場合、20Hzでは-6dB、 40Hzでは-12dB 、80Hzでは
-18dB・・・と、倍々ゲームで低下して行きます。
これを繰り返しますと81.92kHzでは、-78dBの減衰となります。 即ち直流付近で+110dB
の増幅度があっても、81.92kHzでは+32dBのGainを確保出する事になります。
某メーカ(海外)のOP-AMPの具体例を下記に示します。
このOP-AMPの特性は、これは裸Gainと呼ばれるNFが無い状態に於ける周波数特性と位相
特性です。 増幅帯域を100kHzまで延ばしたい場合のGainは+約30dB程度だと理解出来
ます。 このOP-AMPの裸Gainは110dBが定格値で、第一遮断周波数は図より約10Hz程度
と分かります。 仮に第一遮断周波数が10Hzなら、20.48kHzでは+44dBのGainが得られる
計算です。(図16-29は縦軸が大雑把)
国内産のOP-AMPは、Audio用と銘打っても、直流帯域のGainが概ね95dB程度の品物が
多い様です。 この場合は、上記の例に比較して約20kHzで+23dBと分かります。
先だってご紹介したJRC社のAudio用OP-AMPは下記URLを参照下さい。
http://semicon.njr.co.jp/jpn/PDF/NJM4580_J.pdf
この資料によると、第二遮断周波数は6MHz付近にあり、DC-Gainは110dBとなっており
図16-29と大差ない様子です。 又裸のGainもDataより100kZで+37.5dB程度と読め
ますので第一遮断周波数も、概ね10Hz程度だと推定可能です。
増幅度を+20dBに設定した時の電圧対歪特性のグラフが掲載されております。
(出力9Vで1kHz・・0.0006% 20kHz・・0.009%と掲載)
16-8-5) 電源用三端子レギュレーターの発振マージン
再度三端子レギュレーターに内蔵されている誤差増幅器について考えます。
内部回路の基本はOP-AMPに似た差動増幅回路を使います。 制御システムとしては、負帰還
をかけて制御しますが、この分量は三端子レギュレーター内部にある回路定数に依存します。
発振までのマージンは、OP-AMPに比べて貧弱に出来ている事は事実です。
高域で位相が180度回転した処に於ける位相&Gainマージンが少ないので、よく発振する次第
です。 これを詳しく学んでみましょう。
この概念は、アナログ信号増幅に取って非常に重要な意味を持ちます。 特にパワーAMPを
駆動するドライバー段をディスクリート回路で構成する時に、避けて通れない重要アイテムと
なります。
● ちょっと専門的ですが ●
此処では位相余裕とGain余裕の概念を学びましょう。
アナログ回路を学ぶ者に取っては、イロハのイ的な概念で、必ずマスターしなければ
ならない重要な概念です。
この概念を表したのをボーデ線図と申します。 図16-30にボーデ線図を示します。
図16-30の解説
1)増幅度対信号帯域巾の関係
図中の緑で塗りつぶした範囲が、増幅器として機能する範囲となります。
即ち、増幅度が沢山欲しい場合は、増幅可能な信号帯域巾は狭くなりますが、逆に広帯域の
信号を増幅する場合は、増幅度は小さくなる事を意味します。つまりハッチングを施したエリア
がNFを掛ける事が出来、周波数方向に振幅がフラットになる訳です。
OP-AMPの場合、第一ポールが数十Hzと低いので、Audio用途としては、たっぷりNFを掛け
る事が可能で、電気性能的には低い周波数程優れた物理Dataを示します。
100kHz付近で裸のGainは概ね+30dB程度が、現代のAudio用OP-AMP形式の物理的性能
限界だと考えて良いでしょう。
2)第二遮断周波数(第二ポール)周辺の詳細
図から分かるように、通以する信号は増幅には預かれず、減衰する一方となります。
この時、信号の位相は-90度から-180度に向けて回転します。
増幅度が無(Gain=1)から-3dB低下した処の周波数が第二ポールとなり、この時点で位相
は-135度まで回転します。
位相余裕とは
図より伝達系の増幅度が消滅した時点の周波数ポイントの時、位相がどれだけ回転しているか? この値を把握します。 そしてこの値が-180度からどの程度手前の値を示すか?
例えば、Gain=1の時に130度であったと仮定します。 この場合差分の50度を、位相余裕50度と表現します。
振幅余裕とは
今度は位相が-180度回転した時の、減衰値を把握します。 上記Gain=1の時との減衰落差の
分量を評価して、これを振幅余裕と表現します。
総括
三端子レギュレーターの場合は、概ねこの位相回転に対して振幅余裕が少ない事例が大半で、
これを補う事が出来ない故に発振を起こします。 半導体素子の外部から発振を防止するのは、
この振幅余裕を持たせる為に、0.1uFのコンデンサを挿入し、積極的に高域の振幅量を大きくす
る処置を施します。但し半導体メーカの指定容量値を必ず守って挿入して下さい。
これは振幅余裕を持たせる為に、半導体外部から処置を施すと理解出来ます。
以上が正しく理解出来ましたら、OP-AMPは正しくハンドル出来る事になります。
通常量産ラインで、上記位相余裕をどの程度確保するかは、大変重要な設計指標となります。
別途解説しますが、Audio専用AMPはOP-AMPの考え方は取りません。
即ち、音質重視の考え方に立てば、更に物理性能を追求します。 従って、その分上記位相余裕
と振幅余裕の考え方が厳しくなります。 この分量は各社ノウハウ事項となります。
OP-AMPの基本的事項が説明出来ましたので、次回はパワーAMPドライバー段の、基本設計に
ついて解説を試みる予定です。 Op-AMP方式より何故ディスクリート式AMPが優れるか?
この疑問について、回答する予定です。
16-9. 給電設計の総括
冒頭に安定化電源は、ループ式とオープン式制御の2種類が存在すると解説しました。
Audio的にはオープン制御式安定化電源を推奨すると、爺は解説しました。
ループ式制御は、解説しました如く制御系の発振に怯える事になる他、負荷エネルギー量の急変
時に対する電圧の追随性に課題があります。
これはスイッチング電源方式もまったく同じ事が言えます。 即ち安定化の代償として、電圧
変換ロスを抱えており、このロス分は全て熱に変わります。
パワーAMPでは給電源等価インピーダンスRsの低減に腐心しましたが、中電力の安定化電源
分野では、定電圧の安定性・精度を優先するのか?又は、制御精度はほどほどにして
エネルギーの急変時の電圧ふらつきを、ほどほどにする・・この二つの考え方の何れを選択する
か?と言う問題となります。
爺の体験から、ループ制御式安定化電源では、制御応答時間が音質に影響を及ぼし、ある意味
での精度不足は許容する、この設計思想が、音質に対して有効であった・・が結論です。
同時に負荷である増幅回路への給電源インピーダンスは、信号通過帯域内では低い設計が必須
であり、その実現手法としてシャント レギュレーターの考え方をご紹介しました。
当に半導体の至近距離に、デカップ回路と称する大容量の電解コンデンサと、高域側で
インピーダンスの上昇を抑える、小容量のコンデンサを挿入し、安定化電源で給電
インピーダンスが上昇した分を、キャンセルする手法がとても重要となる次第です。
その代表例として、D級AMPの給電端子の処理手法をご紹介しました。
給電源等価インピーダンスは、高周波回路を扱うデジタル処理でも超重要項目となります。
若干記述しましたが、デジタルデータの通信を行う場合PLL回路を使います。 この回路の
一部にVCO(Voltage Controlled Oscillator)が使われますが、この回路への給電は高周波
インピーダンスの低減が絶対に必要となります。
その為にはご紹介したシャント レギュレーターが威力を発揮する事になります。
デジタル信号処理の初歩についても解説する心算ですが・・果たして行き着ける?
給電設計の最後に再度重要事項として整流回路の平滑コンデンサのリップル電流について再録
しておきます。
既に解説しました通り、このコンデンサは容量の絶対値に眼を奪われて、流せる充放電電流の
容量値を忘れてはなりません。 市販の電解コンデンサには、外形寸法は小さきが大きい静電容
量値を示す製品が存在します。 この場合は、概ねリップル電流は小さいものです。
爺の推奨する電界コンデンサの仕様としては、必要とするリップル電流の値に対して、1個の
部品で賄う事をせず、小容量を沢山並列に接続してリップル電流容量と、必要とする電解
コンデンサの容量値を同時に満足させる設計を推奨します。
製品価格にもよりますが、Hi-Fi設計では、例えば37000μFで10Aを必要とする時には
±電源の片側は、4700μFを並列に8個接続し、電解コンデンサ1個当たりの電流容量を減らし
合計で10Aのリップル電流容量とします。(1個当たり1.25Aの容量)
この狙いは、電解コンデンサの容量値を下げる事で、コンデンサの高周波インピーダンスを下げ
且つ電流容量を稼ぐ事に主眼があります。
片側8個で合計16個の小型電解コンデンサを使う事で、給電源の高周波インピーダンスを大き
く低減出来ます。これは、並列接続によるインピーダンス低減の目的と、コンデンサ1個当たり
の高周波インピーダンス低減の両方を狙った処置です。
可能なら、これをモノーラル構成で実装すれば理想的な半導体式AMPが実現出来るでしょう。
更に、この電解コンデンサは、Audio信号用パワー半導体の至近距離に搭載すべきです。
この手法をD級AMPに採用すれば、スピーカー駆動能力の向上に大きく資する事は間違いあり
ません。
その場合実装するプリント基板には、8個分の電流が平均して流れる構造設計を必要とします。
実相ボード上の銅箔パターン上の電流密度に大きい落差が生じないような、電解コンデンサの
配置など、実相手法が課題となります。
更に、実装する銅箔パターンの厚さも十分吟味が必要です。 出来れば銅箔は4層ボード化して
銅箔厚さは最低でも32μ・可能なら70μ以上を採用する事を、是非お薦めします。
ともかく、理想はBattery駆動ですが、これに可能な限り近づける設計を如何にするか?
この音質改善を実現する為には、信号等パワートランジスターを含めた、給電源実装手法の
良否に全てかかっております。
リップル電流が流れる、電流通路の長さを如何に工夫すれば最小に出来るか?この点も避けて
通れない検討課題となります。
最後に、ここに述べました検討案件は、扱う電力容量が上がるほどその影響度は増大する事を
肝に命じ設計する必要があります。 当然電源変圧器・整流器・電界コンデンサ・信号用パワー
半導体の渾然一体となった、熱損失処理案件と併せ上質な設計が求められる次第です。
給電回路設計の締めくくりとして、±15Vの負荷容量75VA程度のオープン式安定化電源で
フの字型保護回路を装備した設計例を、ご紹介してこのジャンルは終了とさせて頂きます。
図16-31に回路図を示します。 半導体の放熱容量に、くれぐれもご注意下さい。
(放熱設計の基礎解説のご要望が無い為に未解説)
注
1)Q2・Q8のコレクター損失は、負荷電流容量に合わせて選択します。5Aなら25W以上
放熱板が必要です。 他のトランジスタは1Wクラスで十分です。
2)Q5・Q10 FET の Idss 電流は 6mA 以上の品物を選択します。
3)D1・D2 ツェナーダイオードは、5V Low-Noise品を選択します。
出力電圧精度は、このダイードで決まります。
4)指定なき抵抗は1/2W定格です。6A以上流れた時に電流保護が動作する設計です。
5)但し出力端子以外を短絡しないように注意が必要です。
負荷短絡時にはQ1・Q6に、約32mAの電流が流れます。(IC-Maxに要注意)
6)±Vinの電圧は17Vから23V(最大25V)を推奨します。
7)必要に応じて入出力端子にデカップ用コンデンサを追加して下さい。(10uF+0.1uF等)
8)発光ダイオードは下記仕様を推奨します。
Vf=2V品のカソード面積の広い高輝度タイプ(赤色)がお薦めです。
順方向電流は6~10mA程度で十分でしょう。
9)抵抗とコンデンサは音質対策品を推奨します。
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