【Z・特別講義15】

[ 小電力回路向け安定化電源回路の基礎と応用 ]


第15回 寄稿
13回の寄稿からエネルギーの供給と言う視点から解説を試みておりますが、今回は小電力系への
給電D級AMPへの給電を解説してみようと考えます。 
そして、給電回路の実装に関する課題と音質の関連を解説します。 

スピーカーを駆動する場合、大量の電流エネルギーを如何に低損失で供給するかが、究極の設計
的要素だと・・その一端を担う重要な要素が電解コンデンサの充放電・電流容量であると・・
且つその高周波インピーダンス特性が音質改善の鍵を握ると・・解説して来ました。
この設計課題は、小電力系への給電でもまったく同じ事が申せます。

又デジタル回路への給電性能でもまったく同じ事が言えます。特にデジタル系は1&0の世界で
電流が急変動しますので、それを駆動する場合、高周波帯域に於ける低インピーダンス化
高音質化の絶対条件となります。 何処まで行っても、アナログ次元の基本性能が良くない場合
は、デジタル回路とは言え、高音質は表現出来ない次第です。 
これはデジタル臭い音を出さない為の、根本的な対処手法の一つです。

デジタル信号処理程 高周波で無くても、500kHz帯を扱うD級AMPでも同じ事が申せます。
今回はこれらの課題に対するアプローチをご紹介します。
まず恒例によりまずご質問内容への解説から・・と申しますか、今回は長くAudioを趣味として
来られた方のご意見を、一部抜粋してご紹介致します。 
(ご投稿ありがとうございます。尚勝手に転載させて頂く非礼をお許し下さい。)

● ご意見抜粋 ●
どんな技術にも功罪というか得手不得手があって、一概に勝ち負けはつけられません。
ただ一般的には偏った主張が声高に叫ばれやすく、すぐ炎上騒ぎになってしまう傾向があります。
特にマスコミ(数学ができなかったが営業成績の数値だけにはこだわる人たち)の技術に対する
理解不足はなはだしく、あおるだけあるいはちょうちん持ちに過ぎないという傾向はオーディオ
に限りません。(と言ったらこれも極論でしょうか)。

ですからオーディオ評論に対する信頼性は極めて乏しくオカルトに近い世界を作ってしまう
ために、ファンのすそ野が広がらないのだと思います。

小生もプアマンズファイルとして長岡式高効率位相変換最少SPの愛好者ですが、現代アンプは
音に生の力強さ自然さを得ようとすると電源などお金がかかる部品に投資が必要でとても手が
出ない価格帯と腰を痛める重量の製品になってしまいます。
(電源が効くのも電流回路にはインピーダンス依存を減らす強力なポンプが必要だからという
ことになり理解しやすいですね)

低域のインピーダンスの乱れに対して真空管タイプは弱いと言われていますが、聴感上ふくらみ
感を感じるものの乱れは感じにくいと思っています。(はるかに部屋の影響が多いからでしょう)

現代はこだわりの部品供給が限られつつあり、すべてがコモディティ化してしまうご時世で、これは悲しいことですが、結局デジタル化しか道はないのか、まだアナログ技術は死ねないのかといった近未来感に対するご意見もうかがいたいと思いました。
アナログは奥深く(すぐオカルトになるけれど)、例えばケーブルなどの影響はトランス出力だと軽減できますし、部品の振動の問題も無視できないですから。

D級がサブウーファーに最適ということは、省エネ上も理解しやすいです。
高域もどんどん改善されてきており、今後の動きに期待が膨らみますが、ノウハウとしてやはり
アナログ回路にお金が必要な印象もあります。この辺の動向も是非今後の執筆に期待を膨らまさ
せていただきます。

30年もオーディオを見てきますと魚釣りがフナに戻るように結局アナログと劇場タイプの大型
SPと増幅器には本質で及ばないようです。 ソースとしてもハイレゾもアナログにはある
ビビットな力強さは出せていないようですし、高効率SPにある躍動感(立ち上がりと立下りの両立)も現代SPは不得手です。

ただ現実的な扱いやすさを考えると、平均的な答えというか方向性は、高効率SPの弱点である低域強化をキャビネットとのマッチングで解決(妥協)し、最低域はD級Ampとデジタル
フィルターによるサブウーファーに受け持たせたうえで、高域が良質な真空管アンプや半導体
アンプを組み合わせた相性(好み)を追求するといったところでしょう。
これは余命少ない定年世代のプアマンズの最適解であると思います。

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このご意見は、爺にもイチイチ腑に落ちます。このご意見に若干私見をプラスさせて頂きます。

現代アンプは、音に生の力強さ自然さを得ようとすると、電源などお金がかかる部品に投資が必
要で、とても手が出ない価格帯と、腰を痛める重量の製品になってしまいます。
ソースとしてもハイレゾもアナログにはあるビビットな力強さは出せていないようですし、高効率SPにある躍動感(立ち上がりと立下りの両立)も現代SPは不得手です。

この根本原因は、SPの能率低下にあり、能率を90dB以上に改善すれば、AMP出力を大幅に
低減出来ますし、価格・重量問題も同時に解決しましょう。
但し、能率を上げ過ぎると今度は重低音再生の質的な次元で満足出来ない事となりましょう。
爺の考える折衷案は、高効率SPが持つ躍動感と、低音感の融合は90~94dB付近で、全ての
バランスが取れるのでは・・? こんな印象を抱いております。 今後の開発課題であると観じ
ます。
ソース源の問題は、確かにおっしゃる事は良く理解出来ます。 この分野でも進歩しており
特にDSD信号の5.6MHzソースは大幅に改善されております。 更に業務分野での通信
フォーマットであるDSDの11.2MHz仕様では、アナログ伝送を既に上回る実力を備えます。
しかし、これを一般市場に開放する事は、著作権の関係で困難と見えます。
ソース源のデジタル伝送分野でも発展を続けておりますが、何れも最終的にはD/Aコンバータ
とA/Dコンバータの性能がボトルネックです。(業務用でも最良は20Bit次元)

低域のインピーダンスの乱れに対して真空管タイプは弱いと言われていますが、聴感上ふくらみ
感を感じるものの乱れは感じにくいと思っています。

SPの低域再生は、既解説の如くAMPのダンピングファクターが握っております。 真空管AMP
はこのDF値が低く、全てSP側の制動能力に任せきりです。 このコンセプトで全て出来上が
っている故に、真空管AMP+高能率SPは統一したイメージで語れます。
低能率SP+半導体AMPは、設計思想がこれも一貫しており、統一したイメージで語れます。

ここで問題は・・、現代SPの低能率+真空管AMPの組み合わせです。
この組み合わせ想定が、設計コンセプト上無いので、市場で混乱が生じると認識しております。
シャープな締まった重低音の実現と、SPの高効率化とは物理的に相矛盾し、且つこれにAMP
側の駆動能力との相乗効果で語る必要があり、話がややこしくなります。

現在得られる正答は、ご指摘の如くD級AMPによる低能率サブウーファーをシステムに加える。
これに止めを刺すと判断します。 しかし重低音の再生音質と、低音・中音との音質マッチング
を考えた時、システム構築上は難問を抱えている・・ これ又事実です。
Hi-Fi分野の市場で、サブウーファーの活用が思わしく無いのは、ここに根本原因があります。
音工房Z様でもこれから鋭意検討が進むものと期待しております。

現代はこだわりの部品供給が限られつつあり、すべてがコモディティ化してしまうご時世で、これは悲しいことですが、結局デジタル化しか道はないのか、まだアナログ技術は死ねないのかといった近未来感に対するご意見もうかがいたいと思いました。

アナログは死ぬる処か、逆に更に発展する必要があります。・・実は、今業界ではアナログ技術
復活に、「やっき」になっております。 USAの某アナログ技術を得意とする半導体メーカー
では、その発展性に注目が集まっております。 我が国では、爺世代のアナログ屋がコテンパン
に切り刻まれたので、若い世代にノウハウが伝わっておらず、現在は懸命にその修復をする時代
だとご理解下さい。 失った技術は直ぐには復活出来ないものです。

たぶん最低でも5年以上の時間を必要としましょう。 つまり爺世代が体験したと同じ失敗を、
思い切ってしないと、技術を身で読めない・・これが現実です。 
アナログ技術は、開発をどの次元で完成と判断するか? これは開発者の感性に従う処があり、
デジタルの如き動作する・しないの単純な判断に基づかないので、現代のデジタル屋が
アナログに転換しにくい一因になっております。 しかもその感性の次元が技術水準で変化
すると言う、厄介な特徴を合わせ持っております。
つまり、アナログ信号処理の技術限界は、その人物のスキルで決まる・・的要素が大きいのです。

しかも単なるアナログ技術の復活ではなく、デジタル化設計の時代にこそ、このアナログ技術が
有効に発揮されるべきなのです。 ですから、爺世代と違って、アナデジ技術と表現するのが
正しいのです。 アナログとデジタルが渾然一体となって、更に一段と上の世界に進む必要が
あります。 その次元を語るには、アナログの基本技術の習得が避けて通れません。

この技術経営を、経営屋もどきは大きく誤った。 これは日本経済に取って痛恨の極みです。
技術トレンドとしては、アナログ信号の発電素子(トランスジューサ)と、デジタル回路との
融合が最も重要な時期にあります。 (例:撮像素子とADコンバータ―の1チップ化等)
これを突破しないと、更に一段と上の品質は望めない時代です。 特に医療機器分野では、更に
一段上の、生命に係る性能が求められております。 後世代の活躍を暖かく見守りましょう。

Audio分野でも需要され有れば、拘りの部品は必ずついて来る筈です。(市場原理の話です)
コモディティ市場から、本物を大切にする市場が主流となれば、必ず供給側の体制は整うもの
と信じます。 本物志向の豊かな精神性を持つ市場が、開かれる事を強く望んで止みません

経営者の姿勢も、この課題には大きく関係して来ると観じます。 常に速攻・即物的発想で、
市場を大切に育てる経営思想の欠如が現在の姿を招いた・・と爺は考えます。
長期的視点に立てない経営姿勢では、あらゆる品物がコモディティ化すると予見します。
Audio機器が雑貨品扱いされる現実の姿に、爺は斬鬼の念を抱かずにはおれません。

D級がサブウーファーに最適ということは、省エネ上も理解しやすいです。
高域もどんどん改善されてきており、今後の動きに期待が膨らみますが、ノウハウとしてやはり
アナログ回路にお金が必要な印象もあります。

まったくご指摘の通りでして、D級AMPの音質を決めるのは、信号の変調方式と既に解説しま
した如く、PWM信号をアナログに戻すローパスフィルター(積分回路)が握っております。
前回解説しました通り、この積分用コンデンサの品質如何にかかっております。
つまり、Audio帯域から数MHzをカバーするインピーダンス特性の良否に依ります。

音質分野では、コンデンサの持つ独特の損失分の高周波特性に、音質が依存します。 
銅箔コンデンサ・オイルコンデンサ・フィルムコンデンサ等の素材の違いは、この損失の周波数
依存性にあります。 故に何れも素材に依存した音質とならざるを得ません。 しかし物理上の
特性と聴感上の音質差を計測する術を、未だ持ち合わせておらず人間の聴感に頼るのが実態です。

更に、容量特性の周波数依存性にも音質は係ります。  加えて変調エネルギーを遮断する磁気コアー・コイル性能に音質が大きく依存します。 

既にご紹介しました、純鉄の圧粉鉄心の性能に止めを刺します。 そして最後の決め手は、実装
技術
です。 この実装技術如何によって、音質は最終的に決定されるのです。音質設計は、上記
アナログ処理部品実装設計回路自体の物理性能渾然一体となって密接に関係します。
今回はD級AMPへの給電課題に絞って解説を致します。


15-9.D級AMPへの給電

ハイパワーD級AMPの設計を困難にしている要素の一つが、この課題です。
つまりPWM変調周波数が、大電力AMPでは300kHz~550kHzが主流です。 小出力の分野
では1MHz~1.8MHzの事例があります。 しかし何れもそのような高い周波数領域で、大電力
を供給する事は、大変困難と言わざるを得ません。

第10回寄稿の図8-5に示します様な実装をイメージした回路図では、システムは成立しませ
ん。 この図を基にして実用的な実装をイメージした回路図を、図15-19に示します。
(モノーラル分のみ)
    

実装状態を想定した平面上に、回路を描くとこのようなイメージになります。
実装は通常4層型プリント基板を使います。 C1の値は前回の解説しました如く巨大容量を
持つ平滑用電解コンデンサです。 PWM変調の場合は給電&リターンライン長々と引き
回すと高周波インダクタンス成分がつき、給電出来ません。
 最悪C1からの給電とリターン
ラインが長い場合ライン上のインダクタンス成分C2/C3で、給電回路が共振を起こすなど、アナログAMPではあり得ない現象が起きます。 (共振エネルギーで最悪半導体を破壊
従って、PWM-SW用電力素子の至近距離に、一度電荷を溜めそのエネルギーで、変調され
たエネルギーを供給するように構成します。 C3C5の大容量電解コンデンサは、数百kHz
帯で十分容量性を有する品物で構成します。 電気二重層式スーパーキャパシターを使う場合も
あります。(軽負荷時にC1からチャージを受け、SP負荷が重い時C3 C5からエネルギーを
供給する構成。 

C2C4は、MHz帯への妨害波抑圧用のセラミック系コンデンサです。 この容量は、電力
駆動用半導体の、電極との距離が例えば1mm以下に実装する事を要求します。

C3 C5も可能な限り電力素子の電極に近い事が要求されます。 (図15-18のイメージ)
L1/C6 L2/C7は、積分回路です。 音質の中枢部を支える部分となります。 
勿論実装状態が悪いと、いくら高い部品を投入しても決して良い音質は得られません。 
正しくアナログ感覚が要求されるエリアです。 高周波アナログの実装知識を必要とします。

このC6/C7に、高周波特性の良いセラミック素子を使う事は、絶対に避けるべき基本です。
その故は、セラミック系コンデンサ交流電圧をかけると、容量値が変動信号歪の要因
なります。 (平気でこれを使うコモディティ商品が存在) 音質無視の、ただ動けば良い
だけ の商品に多い。 爺の業界提訴です・・(笑) 携帯型商品は全て怪しい!

インダクターL1/L2とコンデンサC6/C7の配置関係は、配置上のタブーが存在します。 
即ちインダクターで発生する磁束鎖交する位置コンデンサを配置してはならない事です。
これはSPネットワーク用部品でも同じ事が言えます
このノウハウは、音質設計上とても重要なテクニックです。

お薦めは、インダクター磁界をプリントボード水平面に対して、垂直となる様に実装する事
です。 D級AMPはこのインダクタンスと積分用コンデンサを離して配置する事が出来ず、
故に高い実装技術が要求されます。 プリント基板上の高周波インピーダンスも、EMI対策を
含みノウハウの塊です。 図15-18より想像できるように、ともかく小型化して配線長を極限
まで、短くするのが実装設計の王道です。

近年シミュレーション技術が向上し、プリント基板のパターン設計が大幅に省力化される方向に
あります。 但しアナログ技術の基本を完璧に身に着けておかないと、シミュレータ演算上で
所望する特性が得られない場合、オロオロするだけです。 失敗しても曰くコンピュータの指示
通りに設計した
・・と若いのが嘯く(笑)しかしこれは、真面目に笑えない話です。

間違った情報でシミュレータを動かせたのは、その本人です。・・が、コンピュータ内部で何を
演算しているのか? 内容を知らずにシミュレーション結果だけを単純に鵜呑みは、設計に
なっていない。 この論理すら理解出来てない故の、ジョークみたいな本当のお話です
此処からは先は、設計の奥の院となりますので、これで止めます。

§16. 給電容量が小さい電源装置
Audio用の小信号増幅回路など、デジタル信号処理対応も含む、給電回路の解説をしましょう。
このエリアは、全て電源電圧の変動が許されない分野となります。
その代表例が3端子レギュレータ-と呼ばれる安定化電源装置です。 
この回路の出力インピーダンスは、高くHi-fi設計では、通常ディスクリートで構成する事が
多いのですが、これもコモディティ化の進展に伴い、IC化された経緯があります。

16-1.安定化電源の基礎と原理

商用電源が変動しても、増幅回路に供給する電圧が変動しないように設計する必要があります。
Audio機器には必ずこの回路が搭載されております。
その回路差(方式差)によっても音質がコロコロ変化するので、厄介な存在です。 近年Audio
装置がコモディティ化してしまい、何もかもIC化され、その本質を忘れた機器が横行しており、
誠に残念の極みです。(特にデジタル化機器にその極致を見ます)

1)電圧の安定化の理屈
第12回寄稿で採り上げたレギュレーション特性を再び掲載します。

   

解説
小信号回路では、負荷電流の変動要素が小さく、反面駆動電圧を常に一定に保つ事を要求され
ます。 負荷電流が変化しても、図16-1の黄色で塗り潰した範囲内で電圧が、常にV2の値を
保つ様に仕掛けを拵える訳です。

これは無負荷状態から、電流がiL2の範囲までを一定の電圧に制御します。
ここで商用電源電圧が低下し、電圧の傾斜がBの破線で示すような事態に至った時は、安定化
電源装置の負荷電流がiL3までは、一定のV2の値が維持出来ます。
ここでiL2の負荷電流を取り出せば、安定化状態は崩れV3まで電圧は低下します。

従って、負荷電流がiL3までの範囲が安定化電源装置で一定の電圧が表現出来る限界なのです。 
つまり無い袖は振れないので、入力される電源電圧が最悪条件の設定と、必要な負荷電流を決め
ないと、安定化電源装置は設計不可能となります。 
故にこの図であれば、緑で塗った範囲がV2を取り出せる、最終的に安定化電源として使える
範囲となります。

では、図16-1に示す塗った範囲のエネルギーは、一体何処で消費される??
電圧を安定化させるには、この変動分を何処かで消費させる必要があります。 
何処で消費するのかと申せば、これは全て安定化電源装置内部の、半導体と抵抗で消費し空中に熱として放散させます。 つまり安定化電源は必ず発熱を伴うと言う事です。

電流が流れた時発熱する電力量はiL2Rsですが、給電性能に取っては、今まで説明して来ました、
給電源等価抵抗Rsの値が大きい同義語です。
今までは何とかRsの値を小さくしようとする内容の解説でしたが、安定化電源は必要に応じて
このRsの値を大きく、適正に制御しようと言う訳です。
この発熱程度を制御して、出力電圧を一定にする仕掛けです。 これが安定化電源の基本的な
理屈です。 以下の解説は、完全な回路設計のジャンルになります。

2)出力が一定になる原理
出力電圧を一定に制御するには、電流の変動が起きても常に一定の電圧値を維持する素子が必要
となります。 この素子に、ツェナーDiodeと言う便利な素子があります。
これは、ある一定以上の電流が流れた時、その両端には常に一定の電圧が発生します。
図16-2に示すような電流・電圧特性を持っております。

   

ツェナー電流量は変化しますが、電圧Vzは変化しないと言う特徴を使い、安定化電源回路を
構成します。

3)安定化電源の制御方式
安定化電源装置には大きく分けて2つの制御方式があります。
一つは、オープンループ式制御の安定化電源で、上記基準になる電圧を与え、この電圧を頼りに
電圧を制御する手法です。
もう一つは、クローズドループ式制御の安定化電源で、単にループ制御安定化電源とも申します。
これは、目的とする出力電圧をフィードバックして、その誤差分を増幅し出力電圧を、精緻に
コントロールする手法です。 代表例が3端子レギュレータICです。

16-2.オープンループ式安定化電源
1)
部品最小の構成で出来る安定化電源  

  

解説
1)シリコントランジスタQ1は、エミッタ側に対しベース側の電圧がVbeだけ高い時にOn
  となって、コレクター電流が赤矢印の方向に電流が流れます。 ( Vbe=0.7V )
2)  ツェナー電流は・・Iz=(Vin-Vz)÷R のΩの法則で演算出来ます。
  通常このIzは、5mA~10mA程度になるように、Rの値を決めます。
3)安定化出力電圧は・・Vout=Vz―Vbe(0.7V) で求める事が出来ます。
4)コレクター電流は・・iRL=(Q1のhfe)×Ib(ベース電流)で求める事が出来ます。
  hfeとは電流増幅率の事です。 通常パワートランジスターの場合100程度の値を持ちます。
5)Q1の発熱電力は・・P=iRL×(Vin-Vout) で求める事が出来ます。

設計演算例
具体的に5Vの安定化電源を設計してみましょう。 入力電圧を10Vと仮定します。
出力が5V必要ですから、Vzの値はVbe分の0.7Vを加算して5.7Vと求まります。
次にツェナー電流をここでは、5mAと仮定しましょう。
するとRの値は・・R=10-5.7/5=860Ω と演算出来ます。つまりVinの値は10V以上を
入力する必要がある訳です。 それ以上高い電圧が入力されれば、出力は常に5Vをキープして
くれます。

hfeが仮に100とすれば、ベース電流に1mA流せば負荷電流は100mAと計算出来ます。
仮に入力電圧が15だとしましょう。 この時のIz=15-5.7/820=11.341mA
コレクター電流は、同様に634mAまで引き出す事が出来ます。(Iz=5mAとして)
この時のQ1に於ける消費電力は、P=(15ー5)×0.634=6.34Wを消費します。
つまりこの電力量まで耐える放熱設計をしておけば、負荷に634mAまで出力できる訳です。

このトランジスタQ1に於ける電力損失の放熱計算はややこしいですが、整流ダイオードの項
で解説しました通り、システムのトランジスタ周辺の実装温度が75℃の雰囲気中で、破壊しな
い事を担保すると仮定します。
すると電力量は25℃の2倍の12.68Wの損失電力量を放熱する必要があります。
つまりこの損失量に見合う放熱板を、トランジスタに装着する必要があります。

電圧安定化の代償として、大きい電力を放熱させる必要があると理解出来ます。
これはVinの値が、商用電源が定格入力だと仮定すれば、国内では100Vが110Vまで増加
する訳ですから、上記の15Vは+10%加算して、16.5Vの入力を許容する必要があります。
同様な手順で一次側電圧が+10%増加した時の、損失電力を計算してみて下さい。

2)実際の回路

実際には非安定入力に含まれるリップル電圧を除去する必要があります。 その為にツェナー
Diodeと並列にコンデンサCrを挿入します。 例えば100μFを挿入したと仮定すると、両端
の50Hzに於けるインピーダンスは、1/jωC=約32Ω 。 Vinに含まれるリップル電圧は
R=860Ωと32Ωの比率で低減し、トランジスタのベース電圧として加わります。

例えばリップル電圧が0.5V乗っていたと仮定すればベース側には0.0179Vまで下がります。
安定化電源の出力側に発生するリップル分も、比例して低下する事になります。
又ツェナーDiodeに電流が流れると、その両端からノイズが発生します。
このノイズ成分をシャントする目的で、高周波用コンデンサChを挿入します。
以上の形が安定化電源の基本系です。


3)更にに工夫して

    

この様に構成すれば、更にリップル電圧を低減する事が出来ます。 そして安定化電源が発振
する事を防止する為にCoを挿入して出来上がりです。 一昔の安定化電源なら、この程度で
十分商品化が可能でした。

4)更に負荷電力量を増す手段
トランジスタQ1個でシステム電流を賄えない場合があります。 この場合はダーリントン接続
と言う手段を使います。 これには2種類の方法があります。それを図16-6aとbに示します。

    
赤の電流経路が、トランジスタQ1のベース電流のルートです。
このように構成すると、全体の増幅度はQ1×Q2となり、少ないベース電流で負荷側に大電流
を供給出来ます。 例えば、Q1のhfeが大電力用50とし、Q2の小電力用トランジスタ
hfeが200なら、合計10000となり負荷電流が10Aでもベース電流は僅か1mAで駆動出来る
事になります。

そして図16-6aの接続方式は、NpN型トランジスタを2個組み合わせた、通常形ダーリントン
接続態ですが、出力電圧に対して制御用ベース電圧はVbe1+Vbe2=1.4Vを必要とします。
一方パワー トランジスタ側にPnP型を使えば、図16-6bに示す如く、ベース側の制御電圧は
Vbe1=0.7Vだけで良い事となり、入力側から出力側にかけての損失を半分にする事が出来ます。
この意味は入力側の電圧変動範囲を通常タイプより広く取る事が可能と分かります。
通常の3端子レギュレータ-は、半導体プロセスの都合上その大半が図16-6aの通常型
ダーリントン回路方式を使ってIC化されております。

結局図16-5図16-6bを組み合わせて構成すれば、理想的?な形に仕上げる事が出来ます。
その回路図を図16-7に示します。 これが古典的な回路構成です。

   

この様な形式の安定化電源を、オープンループ式制御と申します。 つまり出力側の電圧変動
分を制御の入力側に戻さす、全体を構成します。 Hi-Hi設計を目指す場合、このような
オープンループ形式が、音質が良いとされます。

16-3.オープンループ式電源の応用
1)シャントレギュレータ型 安定化電源の基礎

この方式は、負荷に供給する電力が小さい代わりに、高周波インピーダンスを大きく低減する事
が出来る安定化手法です。 基本動作回路を図16-8に示します。
   
     

この図で分かる通り、非安定入力側からR1 を経由して、ツェナー電流負荷電流を同時
に供給する手法です。
非安定入力   この特徴は、ツェナーDiodeにあり、この 両端の高周波インピーダンスが数Mz帯でも
10Ω以下が得られると言う特徴を有します。
負荷電流容量が極度に小さい故に、このままの形態で用いる事は例が少ないのですが、例えば、デジタルデータ通信回路のクロックを生成 するPLL回路のアナログ電源等に使われます。 給電用半導体も存在します。

ツェナー電流と動作抵抗の関係は、下記dataの図1.6.1を参照して下さい。
http://documentation.renesas.com/doc/products/diode/rjj27g0009_zener.pdf

2)シャントレギュレータの応用型 安定化電源装置その1
これはオープンループ形式の安定化電源の発展形で、Vzに5Vを3個シリーズに接続し、
アナログ増幅回路に+15Vを供給できる優れた回路です。
Audio自作マニアに、爺が自信を持ってお薦めする、高音質安定化電源回路です。


特にQ2の制御側であるベース端子とGND間の高周波インピーダンスを激減させる事が可能
数MHz帯の周波数で10Ω以下のインピーダンスでQ2とQ1をドライブしますので、電圧出力
端子に於けるノイズ成分をAudio帯域で劇的に減らせます。
シャントレギュレータを駆動するトランジスタのツェナー電流はR1で制御します。
ツェナーの両端インピーダンスが最小になるような電流izを選定する必要があります。
上記サイトにあるPDF-Dataの図1.6.1を参照下さい。
R2はQ3をOnにする為に必要なバイアス抵抗で、同時にQ4のドレイン電流Idssを決めます。
この電流はFETのソース側とゲート側を結合し、ドレイン側に電圧を与えた時に流れる電流

でIdssと呼ばれるドレイン・ソース間電流となります。 Idssは半導体カタログに記載されて
おり、概ね6mA以上のFETを選択すれば良いでしょう。

この電流は入力電圧がふらついても、この系に流れる電流を常に一定に制御する目的で、この
ように構成されています。 俗に言う定電流駆動回路として機能します。
つまりQ3に流れるツェナー電流を常に一定に保つ仕掛けとなります。

又Cnの役割は、給電源の高周波ノイズツェナー電流に持ち込まない様にする工夫です。
更に5VのツェナーDiode は、特にローノイズ品を使う必要があります
資料は下記を参照下さい。
http://documentation.renesas.com/doc/products/diode/rjj27g0009_zener.pdf
この資料の図1.11雑音電圧のツェナー電圧依存性がグラフ化されて出ております。

何故5VのツェナーDiodeを3個使って、15Vを生成しているか?
これには重要な意味があります。 ツェナー電流は5V以下の領域と、5Vを境にして、それ
以上の領域では動作原理が異なり温度変化した時Vzの温度傾斜が正反対の挙動を示します。
この詳しいDataも、上記Dataの図1.7に詳しく紹介されております。

唯一5VのツェナーDiodeが、Vzの温度傾斜を持たないと言う特徴があり、合わせて高周波
インピーダンスも低い訳です。 この特徴を最大限に生かした設計となります。
この手法を公開しますので、小信号の増幅回路に、給電する場合に活用下さい。

尚負荷電流が少ない場合は、Q1とRb1を削除し、Q2のコレクターを入力電源側に接続すれば
良いでしょう。 (この場合はコレクター損失に注意) この回路は150VA程度の負荷に対し、
安定化電源として使用可能です。(15V・10A)
尚Q3のベース側を定電流駆動するには、もっと簡単な手法が存在します。 
それはベース電圧を定電圧化すれば良い訳で、その手法として発光ダイオードが使えます。
図16-5に示如く電源とQ3のベース間にLEDを挿入し、Q3のエミッタ・ベース間を概ね
2Vの順方向電圧でシャントする手法です。

つまりR2とQ4の代わりにLEDとR3を使う手法です。
LEDは、赤色を推奨します。 且つカソード面積が広い品物が、Noiseに対して有利です。
俗に言われる高輝度対応品をお薦めします。 ここではLEDの順方向電圧Vf=2Vを使っており
ます。 (LEDはVfを定電圧として使いますが、この時Noiseが少ないと言う特徴を有します。)
この時流す電流は、最大でも10mAあれば十分でしょう。 電流はR3で決めます。

 

3)シャントレギュレータの応用型 安定化電源装置その2
整流器出力からは、ラフな1段目のレギュレータを介して、このシャントレギュレータに供給する形式で、ツインレギュレータを構成します。 信号増幅用の±電源を形成しております。 
給電源のS/Nを極限まで改善している心算です。1段目の後に、このシャントレギュレータ型
を2段目に投入する事により、更に給電源のS/Nを改善する構成です。

拘りと言えばそれまでの話・・(笑) 興味がある方はご自由にお使い下さい。
やはり、小信号系のAudio用給電回路は、音質対策上でオープンループ式シャント
レギュレータ型
に止めを刺します。


緑の破線ライン
信号系の流れを示します。指定が無い容量は全て、0.1uFです。
拙宅では0.1uFは全てEROコンデンサを使っております。 電解コンデンサは吟味したAudio
専用部品です。 ツェナーDiodeは、特にLow-Noise品で且つ、高周波インピーダンスの小さ
い品物を選択します。 特にツェナー電流iZの値で高周波インピーダンスが変化しますので、
ご注意下さい。 この電流はQ3のエミッタ抵抗で変えられます。

トランジスタの選択は、hfeが200程度で且つLow-Noise品であれば、特に品種は問いません。
又消費電流が少ないので、放熱板は不要でしょう。
但し、増幅器の構成が多い場合は、上記の手法にて各自演算で、損失電力量を求めて下さい。
OP-AMPを駆動するなら、既にご紹介したAudio専用品をお薦めします。
実装上は、電流の分技に注意が必要です。 プリント基板化されるなら、上記回路図を参考に
して線路を構築して下さい。 図から分かる通り、±電源のGND側処理は途中まで独立させて
あります。 非安定入力側GNDは、整流回路の電解コンデンサのGND集合点で合流させます。

Q3のコレクター側のラインは、インピーダンスが十分低いので、ノイズを拾い難いと言う特徴

があります。 複数の負荷に対してQ1/Q2等を並列駆動する事が可能です。(マルチ負荷駆動)
従って、より増幅器の段数が多い場合は、このQ1Q2のトランジスタを増設する事が出来ます。
その場合は、Q3のエミッタ―抵抗の値を小さくすれば、対応が出来ます。

更に、実装上は、増幅器の負荷に近い位置に、このQ1/Q2を実装する事が出来ます。
又増幅器の±電源端子の至近距離にデカップリング用コンデンサ1~0.1uF挿入する事が
必須
です。 また増幅器に給電する±15Vライン上の、低周波インピーダンスを下げる必要が
有る場合は、Q1/Q2のエミッタとGND間に接続してある100uFの値を増量します。

Q4Q5にインバーテッドダーリントンを使っておりますが、消費電流が少ない場合は、Q4を
削除可能です。 尚指定が無い抵抗器は全て1/4Wタイプです。
この給電回路は、あくまで趣味の世界で成立する手法でしょう。 商品レベルではとても、この
様な贅沢三昧は夢のまた夢であろうと思う次第です。

16-4.小信号増幅回路の基準電源
図16-7の基本形を使って、OP-AMP回路への給電手法をご紹介します。
Audioを語る上でとても重要となる事項は、給電ライン上のS/Nです。 このラインが腐って
いると、汚染された母乳を飲むが如きとなり、決して良い結果は得られません。
更にこれに増して重要となる案件が、回路の動作を決める基準バイアス電源です。

1)小信号増幅器の基準バイアス電源
信号振幅の動作点の基準電圧を決定する、小信号処理回路では一番重要な給電分野です。
これもピンからキリまで存在します。 コモディティ用の手法から本格的な手法まで変化に富む
分野ですが、各種の手法を示します。

駆動インピーダンスは、右側回路ほど高い周波数で、低インピーダンス化されます。
IC化される場合は、バンドギャップ型と呼ばれる手法が主流になります。 このような回路は、
信号増幅回路をディスクリートで設計する事が少なくなり、商品設計現場では顧みられる事が
少なくなりました。 但しOP-AMPを使う場合には、片電源駆動回路では必須となります。 
(±電圧駆動時は不要) 全帰還OP-AMP型は高周波回路の駆動には不適です。

2)A/D&D/Aコンバータ―のアナログ信号処理への給電
増幅回路としては、±電源を使った30Vで駆動するのが一般的ですが、+電圧だけで動作する
高性能回路も必要となります。
その代表例が、A/D&D/Aコンバータを駆動する給源ラインとなります。
通常5Vでコンバータ系は動作しますので、図16-9の変形が採用出来ます。
この回路の給電能力は、50mA程度の範囲でしょう。 (デジタル信号回路に採用した実績あり)  
  

   

一次安定化ラインとは、DC生成次元から1段目の安定化処理を経て、S/Nが既に-80dB次元以上に
改善を受けた給電ラインとします。
二次安定化ライン上は更にS/Nを上げて-100dB以上のラインに改善します。
Q1のコレクター出力は、最短で負荷である半導体に給電します。

ツェナー電流を10mAとすれば実質負荷電流は30mA程度に限定されますが、二次給電ライン
上のインピーダンスが数MHz帯で、10Ω以下に保て高純度給電を必要とする場合に有効です。
特に、アナログ信号をデジタル変換する、A/Dコンバータのサンプル&ホールド回路に給電
する場合に有効です。 
従って図16-8の給電回路は、デジタル変換用半導体の至近距離に実装されます。
実装ではその分、一次安定化ラインを長く引き回す設計となります。

20Bit以上の表現をする場合は、A/Dコンバータのアナログ電源は特に、超高性能なS/Nで
同時に低インピーダンスを必要とします。その役割を果たすのが、デカップリング用コンデンサ
です。 即ち半導体内部に外部からノイズを持ち込まない設計が必須となります。 

A/Dコンバータのサンプリング用アナログ電源の場合、このコンデンサは少なくても2MHz
までは容量性を確保する必要があります。
C2は低周波側のインピーダンスを低く保つ目的で、同じデカップ用として機能します。
C3はツェナーDiodeから発生するノイズ除去が目的です。

16-5.誤差検出型ループ式安定化電源
3端子レギュレータは、ループ制御式となり、オープンループ式安定化電源に対して、出力
電圧の制御精度は格段に上昇しますが、負荷変動に伴う制御遅れが必ず発生しますので、厳密な
意味ではAudio信号の増幅用には適さないと爺は考えます。

しかしIC化されており、簡単に実装出来る故に市場で主流を成しております。
この原型は、USAの半導体設計会社で開発され、いっきに全世界へと広がった経緯があります。
古典的な回路と、動作原理を図16-14に示します。

1)誤差検出するタイプの基本回路構成
基準電圧と制御出力電圧を比較し、その誤差分をフィードバックして、出力電圧を調節する回路
の基本形を図16-13に示します。

出力電圧E0は
【R2/(R1+R2)】×Eo=Vz+Vbe2 ・・Q2のベース・エミッタ間電圧をVbe2とします。
Eo=(Vz+Vbe2)÷【R2/(R1+R2)】 分圧比をnと置けば
この分圧比nで生成した電圧と、基準電圧Vz+Vbe2と比較して、その差分をQ1のベース側に
供給し、Q1で制御すると理解します。 (この制御電圧はEo+Q1のVbe1となる。)
ここで、分圧比を小さくすると見かけQ1での増幅度が小さい事と等価となり、制御精度が低下
します。

分圧比nを大きく設計する必要があります。Vzに5Vを使って、出力に20Vが欲しいなら
n=5.7/20 n=0.285   E12シリーズの抵抗値の組み合わせから、抵抗の組み合わせを
選択します。 不可能ならE24シリーズの中から組み合わせを選択します。 
E12シリーズの抵抗の組み合わせなら。2.7kと6.8kの組み合わせが最も所望するnの値に
近く、n=0.284で(R1=6.8k R2=2.7k) 、Eo=5.7/0.274=20.070V
と求まります。 故にQ2のベース側ブリーダー電流ibは2.1mAと演算出来ます。
ツェナー電流は参照Dataより10mA程度流れる様にR3を設定します。20Vなら1.5kΩ。

2)誤差検出の高精度化
この回路を更に高精度化するのには、誤差検知回路を差動で動作させる形とします。

よりZv=Eo・n+Vbe2-Vbe1 で電圧は決まります。 つまり互いのベース・エミッタ間電圧
は相殺される方向に動作します。
故に、単純にEo=Vz/nとなり、トランジスタQ3とQ2をマッチドペアー化すれば、Vbeの温
度ドリフト分が完全に無視出来る事を意味します。 図16-13に比べ、トランジスタの実装上
で熱条件を同じにすれば、Eoの電圧ドリフトを簡単に1/100以下に抑える事が出来ます。

R3とR4は同じ抵抗を選択し、Q3とQ2のコレクター電流が同じ値とします。
その両方の電流がR6に流れ、その両端にVeを生じます。 R1とR2による分圧比を出来るだ
け大きくする必要がありますので、Veの値は (Zv-Vbe1)以下となるように、誤差
検出回路のコレクター電流を決めます。(R3とR4とR6の値を選択)

これを更に増幅してQ1にフィードバック制御するのが、3端子レギュレータだと思えば間違い
ありません。 (Q2のコレクターと、Q1のベースの間に増幅器があると思えば良い訳です。)
即ち誤差信号を増幅する程、分圧比nの値を大きく出来る訳です。

但し、これは直流フィードバック制御ですから、高域で増幅度を持っていると、位相回転した時
に発振します。 3端子レギュレータが発振し易いのは、此処に原因があります。
(NF制御と発振の関係は、別項で扱います。)


16-6.フの字型安全回路

給電装置は常に負荷短絡の危機に曝されます。 これを回避する保護装置を内蔵するのが一般的
です。 オープンループ式レギュレータにも採用可能ですので、原理を説明しておきます。
古来このプロテクション回路は、ディスクリートで構成しましたが、IC化に伴い装備されて
いる事が常識となり、その存在すら気が付かないご時世になりました。 

保護特性を図16-15に示します。 この様に過大電流が流れた時カタカナのフの字に似た電圧
電流特性を示すので、フの字型保護回路と呼ばれます。

                

取り出せる定格負荷電流領域までは所望の電圧を出力しますが、その領域を超えると、半導体の許容電力電圧を越えない範囲で、電圧をフの字型に低下させて破壊を防止します。

負荷を短絡すると、図16-11の如く完全には電流を遮断出来ず、僅かな電力消費が残ります。
短絡状態を解くと、直ちに本来の特性に復帰します。

              

制御回路としては単純なものです。
通常の負荷電流が流れている場合は、Rの両端 電圧は、0.7V以下になる様にRの値を設定し
ます。 しかしQ2のエミッタ側が接地された時、(負荷短絡)Rには短絡電流が流れます。するとQ2のベース電圧が上昇し、Q2がOff 状態からOnに移行し、Q1のベース電圧をGND状態にし、Q1をOffに制御する仕掛けです。

この時、Rに流れる短絡電流に比例して、Q2のベース電圧が大きくなるので、その電圧に比例
してQ2もOffから徐々にOn状態に移行するので、同時にQ1の動作も徐々にOffに移行し
電圧の低下が発生します。その結果、出力端子には過大負荷を取り出すと、フの字型に電圧が
降下する事になります。

アマチュアが回路を実装する時、この保護回路を挿入しておくと高価な部品の破壊を防ぐ事が
出来ますので、採用をお薦めします。 このRの値は通常1Ω以下が選択されます。
Rには大電流が瞬間ですが流れますので、数W程度の定格容量が必要です。
図16-14にこのフの字型保護回路を追加した最終形を示します。

Audioの自作マニア向けの解説となりましたが、音質重視のシステムを構築するには、3端子
レギュレータでは無く、このオープン式制御のシリーズレギュレータを採用する事を強く推奨
します。 図16-10は、音質重視の小信号増幅回路への給電には、うってつけの手法ですので
お試し下さい。(負荷短絡保護はなし)


16-7.電圧制御用パワートランジスター
定電圧電源も近年IC化される事が一般的となりましたが、アマチュアとして負荷電流量を自由
に設定したい・・と考える場合が多いと思います。
ここで重要な事は、半導体素子の基本特性を十分理解する事が重要となります。

ここでは、コレクター電流に対するパワートランジスターの電流増幅度特性の挙動です。

所望する負荷電流と、電流増幅度特性には深い関係があります。
分かり易い特性を図16-17に示します。

        

                              
赤色・・半導体損失温度 100℃
橙色・・   損失温度   25℃
緑色・・   損失温度 -25℃
損失温度によって電流増幅度は大幅に 変化する事を考慮したシステム設計が
必要となります。
更に青破線で示した如き半導体も有る。


爺は青色の破線で示した如きの、電力用半導体は推薦しません。
特に軽負荷時の電流増幅度特性に注意が必要となります。 このような半導体は、量産時の
バラツキ制御が大変困難で、システムの品質を一定水準以上に維持する設計が困難であると
申せます。
又この特性は、半導体を放熱板に実装する形式でも大きく変動致します。 故に放熱板の
熱容量(放熱抵抗)の選択も大変重要となります。
この他、既に解説しましたASO特性に十分注意した設計が必要となります。

今回も紙幅が尽きました。 増幅とNF及び発振についても、電源制御には重要ですので、
合わせて採り上げる予定です。


文系の方には、読んでも面白くないと思いますので、その部分はパスして下さい。
この寄稿も回を重ねる度に、専門性が深くなって行きます。 どの程度の処で止めるか?爺も
思案しております。 ご意見あればお寄せ下さい。 アマチュアとして欲しい情報の限度を正し
く把握しておらず、少々と申しますか・・既にプロの領域に突っ込み過ぎかも知れません。(笑)

 

爺の喫茶室へのアクセス
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リタイヤ爺様へのご質問、ご感想、応援メッセージは

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