【Z・特別講義13】
[ 整流回路について ]
第13回 寄稿
前回の寄稿からエネルギーの供給と言う視点から解説を試みておりますが、変圧器の持つ特性の一端をご紹介してみました。 このアイテムも深く思索すれば奥が深いのですが、肝心要はエネルギーの供給能力は設計上何で決まるか・・ではないでしょうか。
Audio製品のエネルギー供給も、インバーター制御方式(スイッチング電源装置)が試されておりますが、音質との関連では、設計ノウハウまだまだ不足しているのでは・・と考えております。
使いこなせば劇的に軽量化が可能な技術アイテムとなります。 皮肉にもそれは商用電源ライン上を
汚す事にも繋がりますので、他のAudio機器への影響と併せ、トータルで考える必要がありましょう。
更に、これらを構成する電気部品の発達も同時に必要とします。
●共通インピーダンスとの戦い ●
寄稿の冒頭にAudio製品の設計は、全編共通インピーダンスとの戦いだ・・と申しましたが、その困難さの一端が前回寄稿の変圧器設計でもご理解頂けたものと考えます。
改めて共通インピーダンスの怖さを、深く理解する目的で、本日も解説を試みようと思います。
< 同じ抵抗値でも扱うエネルギー量で影響度は大きく異なる >
前回の解説で電圧変動特性としてレギュレーションカーブを扱いました。
パワーAMPへ加えられる電圧は、小電力時と最大電力時で良くても5Vから10V程度は平気で変化し
ます。 当然この電圧変化の影響を、増幅回路は受ける訳です。 その影響程度を最小にする工夫をしますが、影響を完璧に避ける設計は不可能です。
変圧器の影響は大電力程大きく、その対策の最たる例がステレオ増幅器のモノーラル化でした。
では、一体Audio回路のどの部分が影響を受けるのでしょうか。何処のエリアが問題か考えてみましょう。ステレオ増幅器の構成をブロック化して考えてみます。 大電力エネルギーを扱う部分を下図に示 します
オームの法則より
電圧B=給電電圧C-(Rs×(電流A+B))
電圧Aの+側は、(電圧B)よりR1(電流A+電流B) だけ下がり、増幅器のリターン側の電圧Aの-側は給電基準点から見て、R2(電流A+B)分だけ、浮き上がる事となります。
エネルギー伝送線路上の(Rs+R1+R2)×(電流A+B)で発生する全電圧が、共通インピーダンス
線路上で発生する誤差電圧成分となります。 この電圧は、電流の合計が1Aと10Aでは、悪さ程度は
当然1対10となり、扱う電力量が大きい程、悪さ加減も比例して変化する訳です。
では給電電圧Cに対して、電圧Aの振る舞いによる影響度とは何でしょうか?
電流A+Bは時々刻々と変化しますので、信号エネルギー量に比例して、電圧Aは変動します。
つまり電圧基準点から見て、増幅器の給電側は、電流変化に応じて電圧が低下し、逆に増幅器の
リターン側GNDは、電流変化に応じて電圧が上昇します。
●変動電圧成分は、増幅器に如何なる影響を与える? ●
ステレオ増幅器の場合、共通インピーダンスの(Rs+R1+R2)を共有していると仮定した場合、お互いに
影響を与え合い、結果として混変調成分に化ける訳です。 +給電(片電源)の例。
では混変調とは一体どのようなカラクリで発生するのでしょうか? 下図をご覧下さい。
給電側は単純に電圧が下がった分の電流が、増幅器AとBに流れるだけですが、GND側はこれに加え厄介な問題を抱えます。
つまり、入力されるAudio信号に対し、共通インピーダンスによる電圧が加算し、入力信号に再び重畳
され、お邪魔成分が再び増幅され、これが更にリターン電流の誤差が増える方向に作用する。
更に詳しく見ると・・
リターン側に乗る浮き上がる方向の電圧に注目すると、例えば増幅器の構成は、通常増幅段数は多段で構成されます。 (図2の三角マーク) この意味は、リターン点の電圧ふらつきの影響を、増幅する全段の素子に渡り、影響を蒙る事が理解出来ます。 その中でも、増幅度が一番大きい初段増幅回路が最も影響を蒙るとわかります。 (影響度は増幅度に比例)
多段増幅器の小電力回路は、通常電圧の安定化が図られますが、GND側はあくまで電圧の揺れが無い事を前提として設計されます。 電力増幅器の増幅度は出力電力により差がありますが、通常30dBから40dB程度あります。 例えば、GND電位が1mV揺らいだ場合、40dBの増幅度があれば、理屈上は出力側に100倍されて影響が出ます。 (実際には、NFとかCMRR性能により抑圧されます)
( CMRR・・Common Mode Rejection Ratio 同相除去比 ) ・ (NF・・Negative Feedback 負帰還)
故に、特にGND系共通インピーダンスは、システムに取って最大の難敵となり、立ちはだかります。
正しく表現すると、-120dB次元でGND電位は揺らぐ事を、許されません。 システム設計上はこの感覚を、正しく掴んだ設計が出来る者を、ベテラン・・と申します。 デジタル機器でも大問題になります。
実際の設計では、図2のような設計は、間違ってもしません。
入社1年目は平気で、さようなヘマをしますが・・(笑) しかし、爺は体で覚えさせる必要上、指導は一切しません。 ステレオAMPでは、通常図3のような構成となります。
給電を中心にして左右対称とし通電線路長を等しく、且つ最短とします。
これでも給電源等価抵抗の影響が、
大電力時は避けられない場合は、モノーラル構成の実装とします。
(2モノーラル・コンストラクション等)
製品のトップケースを開けて見れば、このような実装構造になっている事が大半です。
製品の片側に放熱がある構成でも、製品の実装は必ずこのような考え方に基づき設計されます。
電源変圧器を中央にして、左右に放熱器が鎮座した実装設計が一般的です。 しかもハイパワーAMP
は、給電源の根本で左右に分離する、接続点の実装構造が、特に重要となります。
製品の重量バランスが取り易く、パワーAMPの実装設計のスタンダートとなっております。
● 共通インピーダンス裏話 ●
実装設計1年生と、ベテラン技術屋との落差・・ これはシステム上のS/Nの差となって如実に現れ
ます。 まったく同じ回路で同時に設計すれば、その実力差を計測した処、S/Nが20dBも平気で異なる事に驚愕します。(20dB=電圧S/Nで1桁の差)
設計とは、CAD( computer aided design)を含む実装パターン設計と、回路設計は一体不可分の関係ですが、設計作業が分業化し、実装設計と回路設計が分断され、設計品質が大幅に低下した歴史があります。
加えて、実装設計を正しく理解していない場合、回路設計自体の実力低下を招いたのが過去実績で
した。 この現象は業界で広く知られた事実です。
つまりアナログ回路をディスクリートで回路設計出来る世代は、実装設計も完璧にこなせますが、最近のデジタルしか知らない世代に、アナログ回路の実装設計をさせると、デジタル感覚でハチャメチャな設計を平気で行い、性能が出ないと・・・途方に暮れる。 つまりデジタル的発想で、繋がっていれば動く・・
と嘯く。 (冷汗) 差し障りがあり、この辺で止めます。(笑)
しかも製品性能の落差は20dB程度では済まない、深刻な悩みを業界全体が抱えております。
即ちアナログ技術者が常識として会得している次元が、デジタルしか経験の無い者は、この文化が無い。
故に、教えたくても受ける側のスキルが無く、日本語が通じない ・・という恐ろしい事態が進行。
これでは いかん! ・・と、やっと経営屋もどき様 がお目覚め ・・ (笑)
アナログ技術者養成を声高に叫んでいるのが現状で、 悲いかなアナログ技術の伝承が出来てないのが現実の姿なのです。
話は逸れますが、土木建築分野でもまったく同じく、技能・技術伝承問題で、行き詰まっているようです。
加えて、ゆとり教育世代は、基礎工学の知識レベルが大幅に低下、応用工学を学ぶ前段階の専門分野のスキルが低すぎ、これまた日本の工業力低下に拍車をかけており、先行きが心配でなりません。教育行政が大問題で、科学技術分野への進学希望者は、発展途上国以下である。・・これが現状です。技術立国の将来に危惧を感じますが、皆様如何?
気分を変えスキル向上に取り組みましょう。 前回に引き続き、理想の給電性能を求めて何が必要か?を解説します。 文系の方には、まったく馴染が無い世界ですが、前半だけでも頑張って読んで下さい。
15-7. 整流回路
ここでは、半導体用AMPを想定し、±電源回路の 両波整流方式を採り上げます。
現代のパワーAMPは、その全てと言って良い程、この方式が採用されております。
スピーカー負荷を駆動する場合、パワーAMPの瞬発力の源は、この整流回路の設計如何にかかって
おります。
分かり易く申せば、変圧器を含み、整流回路を構成する電解コンデンサの容量値と、そこに蓄えられた電荷の移動を妨げない設計が、対応策の全てとなります。
1) ±電源生成
パワーAMPへの電力を供給する、±直流電源の両波整流回路を図15-6に示します。
モノーラル分の構成分を示します。
赤のラインが+側電源で、青のラインが-側電源です。
既にご説明した通り、4Ω・300WのステレオAMPなら、±49Vの電圧が必要で、スピーカーに流れる
電流はステレオなら17.31Aになります。
赤の破線は+側の信号が流れるループで、青の破線は-側の電流が流れるループになります。
電解コンデンサC1・C2は、同じ容量値を持つ必要があります。
この値が僅かでも違うと、信号歪に直結します。 半導体と同じくマッチドペアー化が必須となります。
以下スピーカーを駆動する場合の、瞬発力について考えてみましょう。
2)整流回路の基礎
図15-6に示した整流回路は、両波整流方式と申します。
+側電圧を整流する部分を、分かり易く書き直すと図15-7となります。
電源変圧器の二次側は、センタータップと呼ばれる端子が設けられます。 つまりこの端子がシステム
全体のGND電位となります。 このセンタータップを中心に、上側(赤色側)と下側(緑色側)の二次電圧が発生し、位相は上下で逆相です。 整流用電解コンデンサには赤と緑のような充電電流が交互に流れます。 (Ei-1とEi-2) 電圧発生の向きを、赤と緑ので表示してあります。
100V側の交流入力電圧が、増加方向の波形では、Ei-1の電流が流れ、下向きの電圧では、Ei-2の
電流が電解コンデンサを充電します。
つまり50Hz又は60Hzの半分サイクル分の電圧を、向きを揃えて直流に直す訳です。
図示すれば下記のようなイメージになります
整流されて電解コンデンサに溜まった電圧波形は、右側の如くの波形となります。
鋸波のような電圧ΔVを、リップル電圧と呼びます。 最終的に直流として有効な電圧はDCVで、これがAMPを駆動する直流電源電圧となります。
このΔVで示すリップル電圧は、主に整流用電解コンデンサの容量値と、負荷電流量で決まります。
つまり容量値が大きい程、又負荷電流が少ない程、ΔVの値は小さくする事が出来、DC電圧成分は
上昇します。
図15-8は、GNDと+側出力間の波形を示しますが、-側の直流電圧は、この上下が正反対の波形に
なるように、+側と逆向きに整流ダイオードを接続してあります。
つまりパワーAMPで使う電圧は、変圧器のセンタータップをGND電位として、プラス側とマイナス側が
同一位相で、電圧もまったく等しく設計する必要があるので、C1とC2の値は等しい事が必須となります。
(半導体と同じくマッチドペアー化が必要)
図15-6のC1の+側DCVの値と、C2の-側DCVの値は完璧に等しい事が必須要件となります。
+側リップル分と-側リップル分は、スピーカー内部で電流の向きが逆相なので、打消し合い、理屈上ではゼロ になります。
既に解説しました通り、AMP出力のリード線は回路の一部であり、往復で伝送線路長が完璧に等しい事が必須。
上記ΔVの差は、-120dBレベルの超微細エリアで見ても、これ以下の電圧に制御する必要があります。当然AMP内部の実装と、スピーカーケーブルを含めた、電力伝送線路上の全てに於いて、線路長が等しい事が要求され、ほんの僅かでも差異があれば、±何れの方向かに打ち漏らし電圧が発生します。
故に、AMP出力端でスピーカーを切り替えて試験する場合は、注意が必要となります。(重要)
この条件を担保する目的で、変圧器のセンタータップを中心として全ての巻線長と線路長が完璧に
等しくなるようにシステムを構成する必要があります。 (ステレオであれば両チャンネル共)
図15-6では、終段の電力増幅用半導体は、スイッチとして表現してあります。
既に述べました通り、電力増幅段の半導体にかかる直流電圧は、安定化処理が成されておりません。従って、給電源等価抵抗Rs分の影響で、電流変化に応じて給電電圧が変動する事になります。
この変動量をレギュレーション特性として、12回寄稿で詳細を解説しました。
アイテム§15は、如何にして瞬発力をスピーカーに与えるか? 理想電源・・と言う課題を考えて
おります。 既に前回 答えを記述してありますが、トーンバースト波形の20mSecと言う極短い時間内に、エネルギーを供給出来るか否かの問題です。
そのエネルギー源は、このDC電圧を生成する平滑用電解コンデンサが全てを握っております。
その電解コンデンサの変圧器側からの充電と、スピーカーである負荷側への放電の詳細特性を正しく
理解しないと、AMPの瞬発力は理解する事が出来ません。 詳しく整流回路の動作を見て行きましょう。
上記の如く脈流の谷間を埋めるエネルギー貯蔵の役割が電解コンデンサとなります。
その充電と放電を詳しく解説したのを、図15-9に示します。 (+DCV側のみの波形表示)
少し専門的になりますが、給電回路を語る上でとても重要なポイントとなりますので、詳細を説明します。
ここを正しく理解すれば、何故給電回路が重要か、スピーカー駆動能力を差配する理由が、高い
レベルで理解出来るようになります。
3)整流回路の動作解説
(1) 図14-6の平滑コンデンサC1とC2が無い場合の出力波形
図15-9に示す赤と緑の実線の波形が出力端に表れます。 これを脈流と申します。
商用電源の赤の波形を+側振幅とすれば、変圧器の二次側にはセンタータップをGND電位として
+方向の電圧Ev-1が発生します。(赤の実線波形) サイン波の時間位相を右側に図示。
一方商用電源の-側振幅が変圧器に入力されると、同様にセンタータップをGND電位として、
今度は位相が-180°遅れて、同じ方向にEv-2の電圧が発生します。(緑の実線波形)
つまり商用電源の位相に応じて、変圧器の二次側には、Ev-1とEv-2の電圧が、交互に図示方向に
発生します。 即ち、商用電源の-側位相を折り返し連続して+側に、同じ電圧エネルギーを取り出す
と考えれば良いのです。
(2) 緑の波形が無い場合
これは半波整流方式と申しまして、図15-6の変圧器の二次側の巻線で片側(Ev-2)がそっくり無い場合に相当します。(Ev-1電圧のみ)
つまり商用電源のマイナス側エネルギーを使わず、プラス側エネルギーのみ整流し直流に変換します。
(半周期分のエネルギーが存在しません) ですから、図15-9の、緑の破線に示す如くEv-1の脈流
の間を電解コンデンサで繋いでも、谷間の電圧降下は深くなり、リップル電圧は、E2-ripple で示した電圧に増大し、直流変換する電圧が低下します。
この変換方式は、ごく一部の回路にしか使われません。 (リップルの影響が少ない負荷用)
(3) 青の実線で示す波形
これは、電解コンデンサC1を挿入した時の電圧波形となります。
このように脈流を滑らかな直流に変換しますので、平滑コンデンサと呼ばれます。
両波整流では、C1とC2で平滑し、プラス側とマイナス側の直流電圧を生成します。
E1の電圧値で示す如く、この最大から谷底までの電圧を、リップル電圧値(通常p-p値)とします。
C1とC2が大きい場合は、E1に相当する電圧は小さい値に変化します。
既に解説しましたプッシュプル回路では、このリップル電圧E1分のエネルギーは、スピーカー内部で打ち消し合って消滅します。 但し+側と-側が等しくない場合、微細電圧が残り、S/N悪化要因となります。
(4) 青の破線で示す波形
もしコンデンサC1の容量が不足すると、平滑効果が薄れ、電圧の谷底が深くなります。
更にこの電圧E1は、スピーカーに流れる電流量が増加すれば、増大します。
つまりリップル電圧が増加する方向に作用します。 このリップル電圧E1を除いた値が、実際に直流として使えるE-DC成分となります。 結論はE1を除く為にC1とC2の値を大きく設計する必要がありますが、経済性との関係で適正値を見出す必要があります。
システム設計では、このリップル電圧が小信号増幅回路に紛れて込み、増幅され所謂ハム雑音として
S/N劣化の原因となります。
(5) 時間軸の説明
T・・・ この時間は商用電源の1周期分で50Hz(20mSec)又は60Hzに相当します。
T/2・・これは1周期の1/2(10mSec)に相当します。
両波整流回路とは、このように半周期ごとに交流を直流に変換する動作をします。
一方半波整流器は、緑で示すエネルギーが存在しません。 つまり交流1周期ごとに整流する
動作となります。
T1・・・これはC1に対して変圧器側からエネルギーが供給され、電解コンデンサを充電(チャージアップ) する時間です。 同時に負荷に対しても給電されます。
この充電開始時間をカットインタイムと申し、充電が終了する時間をカットオフタイムと申します 。
この図から分かる通り、充電時間T1はC1の容量値及び、負荷電流量で変化します。
カットオフタイムは、整流ダイオードの順方向電圧が0.7V以下になった時です。
T3・・この時間は、電解コンデンサ側から負荷であるスピーカー側にエネルギーが供給される時間で す。
つまり溜まった電荷が放電する時間に相当します。 半端整流方式は、この放電する時間が長く
なるので、C1とC2に同じ容量を使った場合でもE2-rippleの電圧のように谷底が深くなる理屈です 。
(6) 整流回路のまとめ
回路動作はこれで理解出来た事と思います。
この分野でスピーカーを駆動する能力とは何か?・・を考察します。
(ポイント1)
図15-9から分かる事は、電源周波数の1周期に対して充電する時間が、非常に少ない事がわかります。
この充電時間を差配するのは何かを理解する必要があります。
つまり、短い充電時間内に急速充電するには、変圧器の二次側巻線抵抗が小さい事と、平滑コンデンサの内部抵抗が小さい事と、整流用ダイオードの順方向抵抗が小さい事。
この3要素に絞られる事が理解出来ます。
(ポイント2)
スピーカーに十分なエネルギーを供給するには?・・
平滑用コンデンサの直流電圧分は、図15-9のリップル電圧分を除いた値となるので(図中のE-DC)
コンデンサの容量が十分大きい値が必要と理解出来ます。
ところが、スピーカーは2Ωから16Ωと負荷抵抗の変動範囲が広く、負荷電流が大きい程、早く
コンデンサが放電すると理解出来ます。 つまり負荷抵抗の最小値を、どの値で設計するか? これが重要となります。 (しかも低音領域程エネルギーを沢山消費する)
(ポイント3)
先回解説しました如く、20mSecと言う極短い時間内に、スピーカーにエネルギーを供給する能力は何で決まるか? これが重要となります。
つまり電解コンデンサの端子から、スピーカー端子に至るまでの全抵抗を如何に小さくするか?
と言う次元と、ここでは電解コンデンサの内部抵抗を如何に小さくするか?と言う次元に分けて考えます。
整流回路では、この次元を想定した場合、電解コンデンサの素の物理性能を問います。
つまり信号は時間軸上で大きく変化しますので、コンデンサに取っては、これはリップル電流と見做せます。
従って、リップル電流の大きい値を持つコンデンサを投入する必要があります。
このリップル電流が大きいとは?・・コンデンサの内部抵抗が小さい事と同義語です。
ここでも内部損失の小さい、電流容量の大きい電解コンデンサが必要だと理解出来ます。
● ちょっと専門的ですが ●
4) 整流回路の設計
以上で理屈は理解出来たと思いますので、ここから先が、具体論となります。 何度も繰り返し申しますが、Audioは○○の程度なのです。 これには製品価格が○○と言う厳しい縛りが存在します。 価格をドガエシして、好き勝手に設計出来るなら苦労はしませんが、電源用変圧器と平滑用電解コンデンサは、システムの中で一番体積と重量が大きく、且つ材料費が最も嵩みます。
その○○の程度を選択するのがプロの仕事となる次第です。 俗に言う匙加減の世界となります。
当然この匙加減は、技術力を必要とします。 必要にして最小限度の設計がプロの世界です。
縷々解説しました通り、製品価格は電力容量に完璧に比例します。 その最小限度を知る事が、趣味で設計するにしても、知識を必要とする次第です。
では古典的アプローチ手法をご紹介します。 近年はコンピュータシミュレーション手法で設計される事が多いのですが、ここではアマチュアがハンドル出来る範囲の設計手法を解説します。
数式を導く途中は全て省略して、結果のみ示します。
大変古い研究論文ですが、今でも業界のバイブル的な存在です。 つまり、上記の電圧変動と電解
コンデンサの容量と、負荷抵抗と電源の周波数を全て一括して電気的に説明した内容となります。
この著者はアメリカ人で、 彼は白黒テレビを開発していた時代にRCA研究所に勤務しておりました。
その時代に上記の設計課題に対して研究した結果、図15-10に示す結論を得ました。
この研究者はO.H. Schade氏。 引用文献 Proceeding of I.R.E. 1943.July.p.341
図15-10 解説
横軸は、平滑コンデンサの容量値F×周波数ω×負荷抵抗RLΩの値を示します。
左側の縦軸は、変圧器出力側が無負荷時の電圧E2と、平滑回路を接続した時に得られる直流電圧
E-DCとの比率を示します。
右側の縦軸は、既に解説しました給電源等価抵抗Rsと負荷抵抗RLとの比率を示します。このグラフは、何を表すのか? Rs/RLは前回解説しました、給電回路のレギュレーション特性そのもの
です。 この比率をパラメーターにして、ωCRLとの関係で、変圧器の二次側に発生する電圧と、平滑後の電圧E-DCの比率が、どの様に変化するか? を示すものです。
つまり、平滑コンデンサの容量及び給電周波数が、給電レギュレーション特性と、変圧器の二次側に
生成する電圧との関係で、どのような関係性を持っているのか、一目で分かるグラフになっております。
1943年に既にこのような、研究結果が存在しました。(筆者が生まれる前)
半導体がまだ出現する前の時代で、この特性は水銀整流器を使ってデータを取ったと言われます。
(水銀整流器・・昔タコ型整流器と言われましたが、タコの足に似た真空容器中に水銀を封入した一種の放電を利用した整流器です・・学生時代に実験室で動作する処を見た記憶があります。)
図15-10から何が分かる?
即ち、RsとRLの比率は、Rs値が与えられたら、軽負荷程電圧変動が大きい訳です。
600W・2ΩモノーラルAMP、又は300W・4ΩステレオAMPの、1kVAの変圧器を例に取り説明しましょう。
第12回寄稿で解説しました通り、Rsが0.353Ωなら・・Rs/RL=0.1765 となります。(0.353/4=0.0882)
ここで注目は、コンデンサの容量を含むωCRLは、ある一定値以上になれば、電圧変化が起こらず、
フラットになる領域が発生する事です。 給電源等価抵抗Rsと負荷抵抗のRLに絡んで、必要最低限の
最適な整流用コンデンサの容量値が存在する事が理解出来ます。
例えばRs/RL=0.176の場合、カーブがフラットな限界点のωCRLの値は、最低でも30は必要だと分かります。 しかし、ここでは余裕を見て40と仮定しましょう。 (4Ω負荷では0.882でωCRLは80)
これを50Hzの商用電源で実現するには・・
ω=2π×50=314.159265 で 負荷抵抗2Ωの場合、容量値は?
C=40/324.159×2=0.063662 F ・・・約6万4000μFが、最低でも必要だと理解出来ます。
それでは、負荷抵抗が4Ωに変わった時の容量値は?
C=80/324.159×4=0.061698 F ・・約6万2000μFだと求まります。
適正容量値はこれで求める事が出来ますが、このグラフからはリップル電圧量は分かりません。
次に図15-8のE1-ripple p-pで示すリップル電圧値が重要となります。
算式を導く途中は省略しますがリップル電圧E1を表現する、近似値は下式で与えられます。
実際の回路動作に対し、容量値は少し大きく見積もる シミュレーション式です。
(注意 :スイッチング電源回路には、この式は適用出来ません)
リップル電圧の実効値 Vr rms = E-DC /(6.928×f×C×RL)・・・15-7式
システム上のS/Nを上げるには、このリップル成分を下げるしか手段がありません。
プラス・マイナス電源では、このリップル成分はスピーカー端子上では打消し合いますが、微細
領域では、伝送ケーブル上で+側と-側が必ずしも等しいとは限らず、この電圧を下げる設計が
必要となります。
ではどの程度下げるか?・・これは製造者の、ノウハウの範疇となります。
スピーカーに与える定格負荷電力の時の、実効電流・実効電圧、及びE1の値を既知として展開すれば、平滑容量を求める演算式を求める事が可能です。
C=E-DC/6.928×f×RL×Vr ・・・ 15-8式
例) Vr rms = 1Vrmsと仮定し、平滑容量を演算すれば・・
E-DC=49V f=50Hz RL=2Ω E1=1.414Vp-p ( Vr=1Vrms) なら
C=49/6.928×50×2×1=0.070727 F ・・ 約7万1000μF と求まります。
ωCRL=約45 と求まります。
負荷が4Ωであれば、 更にリップル電圧を半分に低減可能です。 例えば0.5Vrmsなら
C=49/6.928×50×4×0.5=0.070727F ・・約71000μFで、 ωCRL=89.2 と求まります。
リップル電圧が1Vのままで良いと仮定するなら
リップル含有率に直したいなら・・
Vρ=【1/(6.928・f・C・RL)】×100 % ・・・15-9式
600W・2Ω負荷を駆動するに必要な容量は、約7万1000μFで、同一条件で300W4Ω負荷なら、
約3万6000μFと求まります
但しこれは50Hzでの値で、60Hz専用なら各自演算してみて下さい。 通常条件の悪い50Hzで設計する
事が一般的です。 注) 300W 4Ω負荷のステレオAMPは、2Ω駆動時の出力を保証しておりません。
以上で、平滑コンデンサの容量値は求まりましたが、このままではシステムとしてまだ成立しておりません。
ここで重要になるのが、充電電流と放電電流の視点です。
5)整流回路の深読み
Audio信号の品質に資する給電能力を更に深く理解しましょう。
整流回路に給電するエネルギーを再度検討します。 再度図15-7をご覧ください。
改めて整流用電解コンデンサに充電する経路は、このようになっております。其処に流れる充電電流波形を、整流回路の出力電圧変化に合わせ、記述したのを図15-11に示します。
図15-11に示した電流ルート上には、上記の如くの充電電流が流れます。 これが脈流の正体です。
負荷一定で容量が小さくなると、破線に示した如く充電する時間が延長され、その容量値に見合う
充電電流が流れます。 この電流はリップル電流となっており、部品寿命に直結します。
充電リップル電流rms =iMax√T1/2T ・・15-10式 (古典的アプローチ)
充電電流波形を三角波として演算する場合は、iMax√T1/3T で演算します。
図15-11で示しましたCut-in Timeを更に詳しく見ると、上記のT3で示した時間内は、負荷側である
スピーカーに放電している時間となります。
このような電流を流せる電解コンデンサを投入する事が、給電源用として必須要件となります。
例えば、600Wでモノーラル2Ω駆動では、スピーカーには17.31A流れますが、300W 4Ω負荷でステレオAMPでも同様に、同じ電流が流れます。 (充電ピーク電流と、実効電流の両方を勘案します)
上記の如く、リップル含有率から電解コンデンサの容量値を導出しましたが、これはあくまでリップル電流条件を満たす設計が優先します。 以下 平滑コンデンサが具備すべき条件を考えます。
電圧変化分がRsの存在ですから、一次側商用電源が100Vの場合、アイドリング時の電圧が55Vとして
前回の寄稿で解説しました。 しかし一次側電圧は最悪条件で、電解コンデンサの耐圧を設計する事が必須要件です。 即ち一次入力電圧が110Vの最悪条件で考えた場合、コンデンサの耐圧は最低でも63Vは必要でしょう。
更に加えて、何らかの要因で整流回路の負荷端がオープン(Fuseが切れる事を想定)した場合、その
絶縁耐圧は80Vクラスが必須となります。 このような条件から、製造されている商品を探す事になり
ます。 同時に、システムの負荷電流容量を満足させる、実効リップル電流容量を選択します。
具体的には、このニチコン殿の製品ならLNT1K104MSE から検討スタートとなりましょう。
この電解コンデンサの耐圧値は80V 実効リップル電流は18.6A 容量値は100000μFとあります。
この17.31Aと言う電流量を満足する電解コンデンサの選択が全てに優先する次第です。
すると自動的に、その容量が100000μFとなり、この下のクラスの68000μFを選択するなら、耐圧を上げて100V品を選択する事になります。(LNT2A683MSE・・実効リップル電流18.2A)
300W・4Ω負荷ステレオAMPでは、駆動電圧E1-DCが40Vに低下し、それに相応しい耐圧と電流容量
の電解コンデンサを使う事となります。 特に電解コンデンサのピーク電流に注意が必要です。
2-chステレオ動作で17.31A流れる事を想定し、且つリップル電圧は目標値を指定します。
耐圧は、同様な考え方に立てば、63V品を使う事になりましょう。
6) 総括
(1) ωCRLの条件と、Rsと最大リップル電流条件を加味したコンデンサ容量を選択。
(2) リップル電流と、同時にコンデンサの絶対最大耐圧要件を満足する品物を選択。
一次側入力電圧が定格の+10%で且つ、整流回路の負荷端オープン時の電圧を想定した電圧
を絶対最大耐圧の条件と考えます。 僅かでもオーバーすると、漏れ電流が増えて急激に寿命が
劣化します。 これは重要保安部品であり、システムの安全設計上の要となります。
(3) 1と2の要件を満たす容量値で、リップル電圧を計算。
(4) ωCRLの値を演算し、図15-10から適正範囲を確認。
(5) 一般的な 8Ω 100W-AMPの演算例 (負荷抵抗1/2は短時間だけ動作保証・50Hzでの運用)
まず必要な電圧と実効電流を求めます。
V=√2PRL=√2×100×8=40V Im=√2P/RL=5Ap-p ・・・3.53A ステレオ分で7.071A rms
電圧変動率・・・アイドル時電圧を45Vと仮定すれば (5/40)×100=12.5%
アイドル電流0.1Aと仮定し、必要な等価給電源抵抗Rsは ・・・15-1式より 5/7.071-0.1=0.717Ω
Rs/RL=0.717/8=0.0896
整流平滑用コンデンサの絶対耐圧・・63Vと仮定 リップル電流は7.071A+α・・・システムで9Aと想定
63Vで9A 流せる電解コンデンサを選択・・・例えば LNT1J333MSE (9.4A 33000μF)
システム電流が大きい場合LNT1J473MSE (11.2A 47000μF)
リップル電流のピーク は、両派整流で充電時間T1を2mSecと仮定するなら、15-10式より
iMax=9/√2/20=28.46A ・・(使用上の最悪条件を想定する)
同じ容量値でも小型コンデンサでは、電流値が不足します。
小型大容量の品物は、電流仕様に注意下が必要です。
リップル電圧=40/6.928×50×0.033×8=0.437V rms ( 0.618V p-p)
ωCRL=2π×50×0.033×8=82.93 ・・・図15-9より、電圧フラットゾーンで使用が分かります。
上記100W-AMPなら リップル含有率はVρ=【1/(6.928×50×0.033×8)】×100=1.09 % rms
ここで、50Hz 82.93のまま、 ωの値を上げてみたら・・
これを仮に40k Hzのスイッチング電源装置で駆動したと仮定すれば・・
ω=2π×40×103=251327 C=82.83/ωRL C=82.93/2010616=41μF と演算出来ます。
近年スイッチング電源が主流を成す理由が これで、ご理解頂ける事と思います。
50Hzなら3万3000μFの容量が、SW電源なら僅か41μFで同じ機能が実現してしまいます。
但し、電流容量は変化ありませんから、コンデンサ容量は小さいと言っても、40k Hzで容量性を示し
且つ同時に大電流容量のコンデンサが必要となります。
(6) ±電源用電解コンデンサ
プラス側とマイナス側で容量を、正確にマッチングさせないとAudio用途に使えない・・。
この設計アイテムは重要管理項目となります。
(7) Audio信号の低音を考える。
例えば、電源周波数を50Hzとし、信号周波数を25Hzと仮定して考えます。
50Hzの周期T=20mSec でその半周期は10mSecとなります。 ここで、信号周波数の周期は40mSecとなります。 つまり25Hzの信号を再生している最中に4回電解コンデンサに充電される勘定です。
つまりエネルギーを消費しながら充電を繰り返している訳です。 つまりコンデンサ側への充電電流と同時に、負荷側にも供給されDC電圧を構成します。 変圧器側から見れば、T1の時間帯(充電時間中)は負荷が重たい動作となります。 更に、次のCut-in Timeは放電エネルギーが大きいので、溜まった電圧が早く下がる事を意味し、時間T1が長くなる事を意味します。
この意味はAudio信号に応じてT1は時間変動すると理解出来ます。 加えてSPインピーダンスの
負荷抵抗値が低下すれば、消費電流増大となりこれに見合う形で、リップル電流のピーク値を勘案
します。 (加えて、一次側の商用電源変動の最悪値で演算します。)
故に、整流ダイードは高速スイッチである事と同時に、最大電流値の吟味が要求される訳です。
(8) システムのGND基準は何処に?
図15-7より、変圧器巻線のセンタータップが全ての基準となります。 一般的には、ここがシャーシの
GND点となります。 回路的には整流用平滑コンデンサのマイナス端子と、センタータップの距離は
限りなく短い事が理想ですが、実装上はある程度の距離が必要となります。
(9) システムへの実装
変圧器の二次側と整流器まで、及びセンタータップから平滑コンデンサに至る通電経路上は、電流容量
に見合う配線処理を必要とします。 更に±電源を構成する場合は、プラス側とマイナス側を完全に対称となるように、実装する必要があります。 そのイメージを図15-12に示します。
平滑用コンデンサのリターン側は、電極間を銅板のバスバーで結合したと仮定します。
変圧器からの配線と、スピーカーからの配線を、このバスバー上で結合させる必要があります。
さてその方法は皆様なら如何なる手法で結合しますか?
当然音質に影響がありますよ! 更に整流器入力の給電線と、リターン用配線の処理方法で、音質への影響があります。 合わせて処理方法は如何に?
整流器は4端子構造ブロックで、対称性が担保されていると仮定します。
我と思わん方は、通信欄に書き込んで下さい。 爺なら・・ の手法は、次回寄稿で・・
(10) 図15-10の活用
図15-10のカーブは、ωCRLの範囲が広いレンジで、負荷抵抗とRsの関係(レギュレーション特性)との
関連が見て取れます。整流平滑コンデンサの合理的な値を探るに参考になり、是非ご活用下さい。
今回はE-DC/E2の値が変動する限界周辺で、試算してみました。 (経済性無視ならωCRL大を選択)
大雑把な回路見積もりなら、概ねこのような手順で、平滑用コンデンサの値は求める事が可能です。
以上の解説で、平滑用電解コンデンサの容量を決める根拠の目安は、ご理解頂けたものと考えます。
実際のシステム設計では、まだ考察すべき重要なアイテムが残っております。
今回解説しました通り、スピーカーにエネルギーを可能な限り長い時間給電するには、容量値が差配する事が分かりましたが、加えて瞬間的に電流を供給する能力が同時に求められます。 この能力如何によって、ダイナミックヘッドルームが決まる次第です。 ここから先が設計の奥の院で、ノウハウ領域となります。 (業務用設計分野では、この電流を詳細にシミュレーションします。)
アルミニウム電解コンデンサの、詳しい技術情報は下記を参照してください。
http://www.nichicon.co.jp/lib/aluminum.pdf
この資料はニチコン株式会社殿から提供されております。(ホームページからも検索出来ます)
倍電圧整流する時のバランス抵抗付加の演算方法・温度上昇に対する信頼性・リップル電流による
温度上昇と寿命の関係・推定寿命の関係など、アマチュアとしても参考になる各種Dataが満載されて
おり、とても参考になる資料です。 ご一読される事をお薦めします。
7) 製品寿命は何で決まる?
製品設計上重要なアイテムは、システムの信頼性を設計で作り込むことが求められます。
その信頼性設計の根幹を成すのが、このアルミニウム電解コンデンサに対する動作要件なのです。
つまり、この部品は熱に対して弱く、動作上の寿命を持っております。
分かり易く申しますと、アルミニウム電解コンデンサの内部動作温度で、製品寿命が決定されます。
アルミ電界液の適正温度が存在し、製品寿命限界とは、容量値が無くなるまでの時間です。
製品寿命は周囲温度に差配され、既にご紹介したアレニウスの物理法則に依存します。
その様子を図15-13に示します。
ニチコン(株)殿から転載許可を得ておりますので、図15-13をご覧下さい。
-10℃低下・・8年に延びる
例えば、105°品で2000Hr保証品の場合、周囲温度が80℃中で、1日当たり8hr使ったと仮定すれば
約4年で寿命を迎えますが、周囲温度を70℃に下げれば約8年の寿命を得ます。
同様に、105℃品で5000Frの保証品を使った場合、同様に周囲温度が80°中で、1日当たり8Hr
使ったと仮定すれば、約10年で寿命を迎え、周囲温度を70℃中で使えば、20年の寿命を得ます。
この温度は、最大リップル電流量で決まる他、システムに搭載する時の周囲温度に左右されます。
つまり上記、リップル電圧は小さい程、且つ周囲温度を低く設計すれば、信頼性は向上します。
(コンデンサの指定する定格リップル電流値に対して余裕を持った使い方をする。)
信頼性設計上の詳細は次回記述しますが、この電流容量の余裕を持たす設計に音質を左右する究極のノウハウが存在し、その電流容量は、電解コンデンサの内部温度で変化する事に注目下さい。
温度関連の詳細は、ニチコン(株)殿のDataに詳細が解説されております。
故に、リップル電圧を決め・変圧器のRt値を決め・負荷抵抗RLが決まったら、このジャンルは信頼性が
検討可能になります。 当然変圧器のRt値を大きくする事は、発熱量が大きくなる事を意味します。
信頼性の作り込みは、下記の条件等を勘案し具体的な物理量に置き換え、演算し求めて行きますが、
アマチュア的には関係ない分野ですが、ご参考までに掲載しておきます。(これが全てではありません)
8)電源用整流器について
600W・2Ω負荷のAMPでは、整流用ダイオードは、電力容量の大きいタイプを必要とします。
シリコン型ダイードを使うのが一般的ですが、順方向電圧分としての、損失電圧0.6V~0.7Vが必ず存在します。 例えば600W・2Ωを駆動するには、負荷電流容量17.32Aで、周囲回路を含めると約20A
程度は必要でしょう。 このダイードでの損失電力Pは、20A×0.7V=14W にもなります。
この損失電力分を実装設計する訳ですが、 ダイオードには絶対最大損失(定格)が存在します。
その最大許容損失以内に収める設計を必要とします。 (このクラスではダイオードに放熱器が必須)
電力用半導体万般に渡り、同様に放熱設計が必要です。 (電力増幅回路の放熱処理解説は省略)
簡単に電力素子の許容損失限界について解説しておきます。
半導体カタログの許容損失値は、通常が温度範囲は半導体によって変化します。
上図に示す通り、素子の周囲温度が上昇すれば、許容損失は低下します。
この温度傾斜も放熱特性で変化します。
電力素子を周囲温度が75°の雰囲気中で使うなら、半導体の損失条件を満たす損失電力以内で運用する必要があります。 システム内部の実装空間の温度を予め決め、各種設計パラメーターを設定
します。 既に解説したウオームアップ温度がこれに該当します。
ダイオード仕様の吟味は、この他に最大ピーク電流の検討があります。
ここに求めた20Aの値はrms値であり、半導体の選択は最大許容電流のp-p値が必要です。
通常60Hzのハーフサイクル分に流れる最大電流を算出して、これにある安全係数を乗じて最大p-p
電流を求め、半導体スペックを選択する根拠とします。
更に、実効電流20Aの値は、負荷端をショートされた時に流れる電流を同時に吟味します。
負荷端をショートされても、半導体が破損する事は許されませんので、同時にショート電流も勘案して、
全体の絶対最大電流値を選定します。 (既に解説しましたASO特性を吟味します)
前ページに記述の信頼性設計時の最悪条件下で、値は吟味されます。
負荷端をショートした場合の短絡電流は、給電源のRs値と一次側商用電源電圧に依存します。
(給電源等価抵抗Rs =変圧器・Rt +整流ダイオードの順方向抵抗)
ダイオードと音質の関係は、カットイン・カットアウト動作の、スピードが関係します。
つまり動作スピードが速い、高速スイッチタイプを選択するのが一般的です。
Audio信号用電力増幅半導体で音質が変化する様に、このダイオードによっても変化します。
高速でスイッチ動作すれば、ノイズが空間に放射されますので、その対策も同時に必要となります。
これに加えて、許容最大電流と運用最大電流の比を、Audio設計では特に重視します。
9) Audio帯域で見た等価給電源インピーダンスの低減
前回11寄稿で、Audio信号増幅回路に供給する給電源インピーダンスは100kHzに渡って、低い程
音質は優れると解説をしました。 これにはBatteryが最適で、これを上回る性能を有する手段が無い
事も・・ 既に解説しました如く、変圧器を含む整流回路の等価給電源インピーダンスRsで、100kHz付近は何の要素で決まるか? ここが課題となります。
既にお気づきの通り、これは全て平滑用アルミ電解コンデンサが握っております。
今回ご紹介したニチコンのDataで、図1-8と図1-11をご覧ください。 この程度が実力です。
しかも温度特性を持っております。
このDataには記述がありませんが、10000μFともなれば、容量と引き換えにインダクタンス分が上昇し100kHz帯域では、容量では無くインダクタンス成分に化けます。 平滑用の巨大容量電解コンデンサでは、容量性の特性を示すのは、せいぜい20kHz程度がボトムで、それより上の帯域では、
インダクタンス成分が勝り、抵抗値は上昇します。
この容量性とインダクタンス性を分ける分技点は使うコンデンサの種類と、容量値によって大きく変化します。 この対策は、大容量の電界コンデンサに良質のフィルム系・高耐圧コンデンサを並列接続します。
ところが、電流容量を得る事が甚だ困難な次第です。 (負荷に大電流が流れる事はありませんが・・)
給電容量に見合う電流を確保した、高性能のフィルム系コンデンサを挿入すれば高音質化が可能です。
(コンデンサ素材は、ポリプロピレン系フィルムがお薦め) 当然コンデンサの材質で音質が大きく変化します。 給電ライン上の高周波インピーダンスの低減は、信号系S/Nの改善に即直結します。
これをデカップ回路と申しますが、別途解説する予定です。
ともかく、大容量且つ100kHz帯域で給電源インピーダンス3mΩを確保する、商用電源から直流への
変換回路の設計は、至難の技となります。 特にPWMを使ったスイッチング電源は、その出力ライン上にPWM変調波成分がモロに乗っており、これを除去しない事には、Audio用電源としては使用出来ない
のです。 高音質化=給電ライン上の、高周波インピーダンス低減と考えて間違いありません。
この巨大容量の平滑コンデンサをハンドルするのは、かなり困難な課題が山積しております。
Hi-Fi設計では、特に実装時に他の部品との、電磁界結合の問題があります。
既にお気づきの通り、このアルミ電解コンデンサの大電流領域での、電流リニアリティーがAudio製品
の品位に大きく係ります。 従って、一般市販の平滑コンデンサでは対応出来ない、内部構造の細か
い次元までメスを入れ、改善して来た経緯があります。 (詳細はノウハウ領域)
今回検討しました600W 2Ω対応AMPの平滑用コンデンサは、実際の製品ベースで考えると10万μF
が必要となりましょう。 (特注品を除き、E-12シリーズでしか標準品は対応しません。)
105℃で、リップル電流を加味すれば、ニチコン殿の製品ならLNT1K104MSE から検討スタートとなり
ましょう。
ノウハウを若干ご提供・・ 同じ容量値でも耐圧が高い品物が、高音質の傾向を示します・・
たぶん・・・ 特注品として、ノウハウをつぎ込む形で設計は進行する事になりましょう。
10) 安全性確保は全てに勝る
整流回路の負荷端をフルオープンした時の耐電圧が、何故必要か?
既に解説した通り、負荷端までに至る回路上にある、Fuseが何らかの理由で溶断した時、負荷電流が
ゼロとなりその時に、整流回路の平滑コンデンサには、最大電圧が加わるからです。
この最大電圧は、システムが最悪の状況に陥っても、安全上の問題が発生する故障モードに、絶対に
陥らない設計が必須となります。
当然これは商用電源の電圧が、法的に許される最大条件で設計されます。 某燐国では、この電圧が、最悪+35% だった例があります。 つまり、夜間に商用電源電圧を上げて、平気で電力を押し売り
する・・ なんて こんな国が近くに存在します。 (笑)
そのくせ、昼間の電力需要が増すと、平気で停電させます ・・(笑) 裏話はこの辺で・・
ともかく、電源回路設計では、安全対策上で最悪をシミュレーションし、熟考した設計が必須となります。
輸出商品なら国情を正確に把握しておかないと、とんでもないクレームを抱え込む次第です。
11) 部品製造能力
コンデンサを製造する立場から申しますと、10万μFの容量でマッチドペアーを組む事が、最大の製造
障害となります。 この案件は大変難しく、言うは易くな世界で、ここに製品価格が大きく高騰
する一つの要因が潜んでおります。 実現困難
・・ですから、国内で物を作らず海外に製造ラインが逃避すれば、あらゆる場面で細かいノウハウが流出します。 こんな小さい品質案件でも、日本の工業技術力の源泉であります。
よって、物造りを国内から放逐すれば、物は作れても品質を作り込む能力が消滅します。
需要と供給の問題で、大容量の電解コンデンサの容量値を、マッチドペアーで作り込む事を要求する
のは、Audio業界が唯一の存在でしょう。 当然需要な無ければ、物造りノウハウも消滅します。
某隣国で生産されるコモディティ商品は、こんな次元の話には無頓着で、儲けが最優先され 且つ
これが物造り文化です。
この優秀な部品を、ヨーロッパのAudio業界で盛んに採用している事実をご存じでしょうか?
アナログ要素で、工業製品の品質を底辺で支える事が必要な案件として、ご紹介してみました。
品質への拘りは、日本人の美徳だと個人的には考えます。(本物志向が強い文化)
ともかく、Audio商品は細かい部品次元での、物理性能改善の積み上げで成立しており、ここに各社
ノウハウの集積があり、音質との関連性がきちんと定義付けされております。 素材次元で音質は大きく変化し、アルミニウムコンデンサの電解液一つ取ってもノウハウの塊と申せます。
最後にニチコン(株)殿を何故取り上げた?・・実は自宅の近所に工場があり・・(笑) 他意はありません。
給電の裏話も加えて解説してみました。
今回も紙幅が尽きましたが、次回は実装設計と、給電性能の深堀を解説する予定です。
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今日も長々とお付き合い賜り、感謝申し上げます。 爺 拝
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