【Z・特別講義 9】
[ GND 処理と D 級アンプについて ]
第9回 寄稿
皆様のご質問が多義に渡っており、ご質問に答える事が出来ない事を、心苦しく思いますが、辛抱強く
お待ちください。 又記述に関し、ご意見アドバイスをたくさん頂戴し、真にありがとうございます。
最近老耄が進行し、単位・桁を間違って記述する等・・ ご迷惑をおかけしております。
発覚次第モグラ叩きしており、オカシイと感じたら、あれこれ考える前に遠慮なく書き込んで下さい。
ご指摘を頂戴し、正しい資料として末永く、ご参考になれたら、真に幸甚です。(深謝)
又再発行時には、正誤表を付けて配信して欲しい、とのご要望があり、次回から改善致します。
先回の寄稿では、単線と細線・撚り線の音質差に関し、記述が無いとのご指摘を頂戴しました。
これは、音質を一対比較したDataが手元に無かった故に、記述しませんでしたが、一般論で申せば
細線の撚り線が有効となるのは、電気的には高周波帯の伝送に限られます。
これは、電流が銅線表面しか流れない、表皮効果が表れる周波数帯であり、Audio信号帯域では無視出来ます。 曲げ易さを考え、家庭内での運用を考えると、細線の撚り線が一般的でしょう。
音質的な差は、通常単線の方が抵抗値を低減する意味からは有利です。 単線は高純度の品物が
市場に殆ど無いのが現状だと思います。 (OFCφ2の単線が販売されているようです。)
ご自分で単線を加工し、撚り合わせて使う手段はあります。 撚り回数はご自分で探って下さい。
この場合も短い程、良い効果を生む筈です。 (長手方向に均一に撚り合わせるのがポイントです。)
接続時の圧着加工も、単線が有利と思います。
ある読者の方は、ケーブル長50cm以下で、システムを構築されている様子です。
給電方法を含め、よりコンパクトにシステムビルドする事が、究極を目指す時の要諦となりましょう。
この場合、機器間の相互干渉にご注意下さい。特に出力端子と他の機器の入力端子間に於ける結合
には、注意が必要です。 この課題は、実装編で解説する予定です。
放送局の音響ご担当ディレクターの方よりコメントを頂戴しました。業務用の世界ではケーブルの音質
云々は問題にならない事が一般的。 このご意見は、生の音楽ソースをデジタル記録し、これを再生して 音質評価する体験からも、まったく同感です。
生ソース源をダイレクトに再生する音質と、記録後に再生する音質落差は、身に沁みて理解している心算です。 その知見から、業務用の生信号を扱う場合、アナログ信号品質は圧倒的に高く、パッケージメディア系を経由した、アナログAudio信号との間には、越えがたい段差が歴然と存在します。
更に電源事情が業務用は完備されております。 この目線で申せば、全ての機器がバランス伝送する
業務用の世界では、ケーブルの音質差云々は問題にならなかったと記憶します。
業務用の分野は、一発動作の信頼性こそが命ですね。 (放送はある意味で、時間を売るご商売)
これからは、寄せられた皆様の貴重な声を可能な限り、ご紹介して行きたいと思います。(乞うご期待)
§12. GND処理
今回はアース処理に付いて解説します。 ご質問の中に、鉄板の上に製品を乗せたら音質が劣化した・・何故? 云々とあります。 この視点は大変重要な視座を持っております。 今日はこのアイテムを深堀し解説を試みます。 第5回で解説しました、給電源の極性問題も改めて解説します。
12-1.シャーシの役割
GNDに関し、シャーシの電気的な役割を考えてみましょう。製品の外板は金属で覆われている事が大半です。 この金属ケースは、電気的にはシールドの役割を負っております。
つまり機器内部から発生する不要輻射電磁波を遮断する役割と、外部からの強い電磁波を受けない事を目的とする、シールド効果の役割を持ちます。 (近年携帯電話からの電磁波妨害が深刻です。)
金属シャーシは、対地アースを取る事が望ましいのですが、Audio製品を含む一般民生用機器は、対地アースまでは安全規制上、要求されておりません。
電子回路のGNDと筐体シャーシは、内部で1点結合されております。 2点以上多点アースすれば、
これは袋アース申しまして、ハム雑音(50Hz or 60Hz)の原因となります。
この筐体シャーシは、電源トランス内部の浮遊容量を介して一次側の給電ラインと結合されております。このシャーシに、他の金属例えば鉄板を接近させると何故音質が劣化するのか?
この理由を一言で表現すのは困難ですが、ここで音質実験をしてみましょう。
一般的には、決してお勧め出来ませんが、製品のトップケースを外して試聴された事がありますか?
このケースの有無で、製品の大半は音質が変化します。(変化しない機器もあります)
よって一般的には、磁界・電界がショート状態から、解放される結果、信号リニアリティーが向上し、音質が良くなる方向に作用します。 外界とのシールドは音質とのバーターとも言えます。
高級品になればなる程、この実装上の対策がしっかり為されており、トップケース有無による音質変化を無くする設計が一般的です。 更に申せば、強磁性体の 鉄板は音質劣化に直結しております。
これを解決する一つの選択は、非磁性体素材をケース素材に使う事になります。(アルミニウム。銅など)某Audioメーカーは、銅シャーシを訴求した製品を、提供した実績があります。
尚高級品は、この試験は絶対しない事をお勧めします。 何故なら音質が元に戻る保証がない!。
構造体を構成する螺子類の締め付けトルク(力)は管理されており、元に戻すには同じトルクが必要です。
つまり、筐体を構成するシャーシ剛性は、音質に深く関係します。 高級品は非磁性材料を投入し、
音質改善を図る事が多く、同時にシャーシ組立には細心の注意を払い、剛性管理が必要となります。
高級CDプレーヤー等は、トップケースを開けても変化が無いばかりか、機械的な強度変化は、音質劣化の要因となる可能性があります。
12-2.磁性体の挙動
ご承知の如く、鉄は強磁性体であり磁気エネルギーをよく通します。
従って、金属ラックを接近させると、内部の必要な磁界を鉄板で吸収(ショート)したが故の、音質劣化
だと推定出来ます。 音響業界に於ける、絶対タブーとして、下記が一般常識として知られております
。
この業界タブーを平気で破る産業界があります。 (目的が違うのでやむを得ない?のですが)
ホーム用オーディオ機器を設計する立場から見れば、気絶する程のカルチャーショックを受けるのが、
自動車業界です。 (悪口を書くと差し障りがあり、程々にしますが・・。)
車載用の電機・電子機器のリターン電流、しかも何十アンペアと言う単位の電流を、自動車ボディーの
鉄板を介し、Batteryのマイナス端子に、平気で? リターンしております。(軽量化目的)
これでよく音質が保たれるものだと、呆れる次第なのです。
従って、車載用Audio機器のアフターマーケット市場では、Batteryのマイナス端子まで、専用のリターン
GNDラインを敷設するのが、ごく一般的なのです。
熱線ガラス・ドアミラー・空調用エアコン・パワーウインドー・エンジン制御等の電子機器など、全ての
電流は、車体である鉄板ボディーに流れます。 このリターン電流の影響を最も受け易いのが車載用
Audio機器であります。 純正用Audio製品は、車体ボディー上にダイレクトにGNDを取ってあり、Audio
機器のシャーシ上にも、リターン電流が流れる構成です。(場合によっては他の電装品のリターン電流も)
説明が遅くなりましたが、他の機器又は他の回路機能と、このリターン電流を共有する、線路上の交流抵抗の事を、共通インピーダンスと申します。(給電側の+側線路(ホット側)も同様)
つまり自動車は共通インピーダンスのテンコ盛り状態なのです。 その意味では、電車のレールも強烈な共通インピーダンスとなります。(電車は数十km程度で、給電&リターンする構成)
では何故強磁性体である鉄に電流を流すと音質が劣化するか?と言う課題があります
筆者の個人的な解釈ですが、大きい原因は2つあると考えております。
1つは・・強磁性体に電流を流せば、その材料から電流量に比例した磁界が生じ、これが磁界を嫌う他
の電子部品と相互結合して、信号リニアリティーを損なう。 この影響程度が想像以上に大きい事が原因として考えられます。
もう1つは、少し専門的になりますが・・鉄など強磁性体には必ず磁区が存在します。 この影響による音質劣化です。 磁区とは、磁石の元になる磁気エネルギー構造です。 多磁区構造と呼ばれる、磁区の集合体モデルを図12-1に示します。 実際の磁区構造は、6角形だけでは無く、ランダムに沢山の磁区が集合しております。 この図は分かり易くする為の、一つのモデルだと考えて下さい。
磁区構造は顕微鏡で観察出来ます。 下記に(東北大学・大学院)にアクセスしてみて下さい。
http://www.ecei.tohoku.ac.jp/electronic_physics/research/microscope.htm
更に下記も参考までに掲載しておきます。
http://www.sci.toho-u.ac.jp/ph/column/Galileo_7.html (東邦大学理学部)
一般的に、強磁性体は何もエネルギーを与えない時、各々SとNで一対の形で構成され、且つ多磁区
構造では、上図の如く多面で結合されております。 これが磁化される前の安定した状態です。
長手方向に隣り合うS極とN極の磁壁は磁気スピンと呼ばれる、お互いに磁石の方向が回転しながら
結合する構造になっております。
そして、外部から磁力が印加されると磁壁が移動し(図12-1の右側)、一つの磁区面積が拡大します。更に磁力が増すと次々と拡大して行き、最終的には全面積が、何方か一方の方向に固定されます。強磁性体に電流を流した場合は、電流変化量に応じてこの磁区面積が変化する事になります。
強磁性体に電流を流す事で、自ら磁石を帯びる事(着磁)になります。
この場合、磁壁が移動するのは階段状の変化となります。この時に生じる雑音をバルクハウゼン効果と申します。( 鉄の近傍にコイルを置き、鉄に磁力変化を与えた時、鉄内部で生じる磁区変化を、コイルでピックアップし、これを増幅してスピーカーで再生すると、 ザー・・ と言う雑音が聞こえる。 )
鉄シャーシなど強磁性体上に、Audio信号(大電流)が流れると、それに応じた磁場が生じます。
すると、磁区面積は電流量に比例して変化し、その面積は階段状にガクガクと変化する次第です。
即ち、磁性体に流れる電流リニアリティーは、激しく劣化すると推定されます。
この磁場ですが、車載機器では車体ボディーに数十アンペアと言う単位の電流を流します。
よってシャーシの着磁は、避けられません。この着磁したシャーシ上にAudio信号が乗る訳です。
銅純度を云々する電流リニアリティー次元を、遥かに超えた次元で劣化が生じます。
車載用Audio機器の音質は、ホーム用Audio機器と比べて、何も対策しなければ、信号品質が大きく
劣化する事は、公知の事実です。11-4項で考察しました通り、Audio信号の品質は、微細電流の
リニアリティーを問題にします。 信号レベルで言うと-70dB以下の領域を問題視しますので、強磁性体に直接信号電流を流す事は、高品位再生を目指す場合、真に不都合となります
更に、鉄ネジに電流を流すのは最悪の実装手法となります。 車載用Audio機器のシャーシ上に、
アンペア単位で電流を流し、更にシャーシは鉄ネジを使って、自動車ボディーに直接固定する事が一般的です。これでは音質は担保されません。 これは電源がBatteryだからこそ成立する話なのです。
商用電源から給電する場合は、リップル電流が流れ、ハム雑音となりシステム的に成立しません。
誤解を恐れず申せば、車載用の純正品Audioの音質は、冷たい・固い・シャープ・疲れる・・・等
の評価として現れる次第です。 (これを対策した純正用Audio製品も一部に存在します。)
更に困る事に一旦電流を流せば、微弱でも着磁する事です。
一度着磁すれば、これを消去する事は、一般的に出来ません。(特殊な消磁器を使う方法はあります)
以上より、シャーシ鉄板上には絶対に電流を流してはならない・・この大原則を正しくご理解下さい。一度でもシャーシが着磁すれば、音質は大きく劣化します。 この改善手段が無いと言う事です。
これらの理由で鉄板を電子回路に接近させる事は、音質を損なう直接原因となる次第です。
故に、アマチュアがアルミシャーシを使うのは、加工が容易だけではなく、理に叶っております。
ラジカセの如く筐体がプラスティックとか、木材をシャーシ周辺に使うのは、デザイン上も音質の上からも効果がある次第です。 筆者の後輩は、木製シャーシの上に回路を拵え、悦に入っております。(笑)
確かに理には叶っておりますが、商品化は不可能です。 その故は携帯電話の電波を当てられると電子回路が死亡!(動作停止・暴走)します。 よって金属ケースを製品から除外する事は不可能です。
アマチュアで、音質だけ追及するのは良い手法?・・かも。
(感電含め・あくまで自己責任の世界) 木製ラックは完全な非磁性体ですよね・・(笑)
12-3. 電子部品の実態
これを真正面から記述すると、電子部品業界を敵に回す事になりますが、この禁を犯し記述します。
近年Audio用途に適した電子部品が少なくなって来ました。
つまり・・、電子部品を製造する場合、強磁性体である 鉄合金を使い、これに 平気で電流を流す
設計が横行 しております。 その代表例が、半導体部品のICです。
半導体チップと外部回路とのインターフェースを務める、ICの足部分は、42アロイ(Fe-42%Ni合金)を
使う事が多くなりました。 参考資料は下記です。
http://www.kobelco.co.jp/technology-review/pdf/54_1/013-018.pdf (デジタル用ICで多用)
半導体チップとこの鉄足は、金線を使ったワイアーボンディングで溶接結合します。 この足素材に
非磁性体の銅合金を使った場合、金線と非磁性体である銅は、溶接時の相性が悪く、溶接時間を長く取る必要があります。(溶接強度の確保) ワイアーボンディング加工は、信頼性を確保しながら生産性を重視しますので、短時間溶接が必須です。 この場合、相手が鉄系なら真に好都合なのです。
(溶接時間=**m Sec単位で短縮化を追及)
Audio業界が賑やかし時代は、そもそも鉄を使う・・などと言う発想は、毛頭ありませんでした。
全てのAudio用ICとは申しませんが、Audio業界衰退に歩調を合わすかの如く、鉄合金材を使って生産
性を上げていると聞きます。 このICの足部分に銅合金を使った、Audio専用のOP-AMPが日本に存在します。 Audio性能を真面目に、紳士な態度で追及した製品を、下記にご紹介します。
http://semicon.njr.co.jp/jpn/MUSES/ このメーカーに拍手喝采・・を!!
この評判を聞きつけて、某国では、お得意の?偽物が出る始末。(似て非なる物で・・音質改善せず)
自作Audio派の方が、電子部品を選択する場合、電流を流す端子材に鉄を使ってないか? まず
ここをチェックされる事を、お薦めします。 (永久磁石に吸着する小型部品はNG ・変圧器を除く)
顧客側から声を上げなければ改善は絶対不可能です。
12-4. シャーシに流れる漏れ電流
金属シャーシは、内部電子回路のGNDと1点で結合されております。
この意味は、内部回路のGND電位と筐体シャーシ上の電位を等しくする事が最大の目的です。
当然GNDですから、人が触っても感電の危険性はありません。
実際の商品では商用電源の一次側から混入するノイズと、機器から流出するノイズを防止する為に、
各種フィルターが搭載されます。(国際規格で技術基準を定めてあり、クリアーしないと販売できません)又商用電源から伝わる、落雷による異常電圧から電子回路を保護する設計が必須です。
この場合、これらのエネルギーをシャーシに逃がす設計が行われます。
すると、電気回路的には複数個所で筐体シャーシと接続され、極微弱ながらシャーシに電流が流れる事になります。 その他電子部品の絶縁物を介してシャーシに、極微弱の電流が流れます。
この電流を漏洩電流と定義し、安全対策上厳しく管理されており、流れる電流量は法律で、限界値が
決まっております。 この漏洩電流による事故が、過去発生しております。
その事故とは、乳飲み子が電気を切った状態の電気製品を、オシャブリ行為に及んだ。 この時に感電した次第です。 つまり子供の舌を通して感電し、激しく泣き叫んだ事から、その親が製品メーカーを告訴に及んだと聞きます。 (この事故が、某メーカーで発生した記憶があります。報道もされました。)
電気的には、100Vに対する絶縁抵抗で管理されます。 概ね商用電源ライン上の絶縁抵抗は100MΩ以上必要です。 規制値は直流で0.01mA(10μA)以下 交流は0.1mA以下で運用されます。
単一故障モード (一つの部品が故障した時)でも50μA以下。(絶縁に関する安全設計基準が存在)
医療用電気治療器・・下記を参照下さい。 周波数別に、人が感じる電流限界も記載されております。 http://plaza.umin.ac.jp/ivr-rt/shiryo/nichijun_souchi_kanri_digest.pdf
交流より、直流電流の方が、膚へ感じる電撃ショックは、大きくなります。
病院で使う機器は、商用電源からは二重絶縁する事が必須要件となります。
つまり心電図など、電極を直接肌に接触させて運用する機器などに適用されます。
電気あんま器などの治療電流は、上記アドレスの資料をご覧ください。
12-5. 電源の3端子GND
商用電源の壁コンセントの、ソケットの穴巾が広い方が必ずGND端子となるように、屋内配線をする事が法律で決まっております。 本件は、法律違反の粗悪工事が横行すると聞きます。
それに対し、特に200V系の給電では、必ず3端子コンセントとなっており、製品筐体はGNDに接続して
運用されます。 洗濯機など水回りを扱う製品では、GND端子付きの電源コードの使用が一般的で、
製品筐体は、対地GNDに落として使う事が基本です。
Audio商品の場合、安全規則上は、単相2線式給電が認められており、対地へ直接GND処理する要求
はありません。 しかし最近Audio製品の受電コンタクトが、3端子化するに伴い、接地端子の扱いが話題に上るようになりました。 Audio機器も製品筐体シャーシを、対地GNDを取る事が望ましく、推奨します。
一例として、我が家のAudio専用給電系統をご紹介します。
全てのAudio機器のシャーシをGNDに落とすと、袋アースになる事があり、この場合は特定の機器のみ
GNDから切り離す必要があります。 給電用接触部品は、全てロジウムメッキを施してあります。
コンセント類は接触圧を保持する意味で、一度挿入すれば必要無い限り抜き差し回数は最小限に止めております。電源ケーブル・3端子ソケット類・コンセントは、秋葉原の配線材専門店から調達しました。屋外GNDケーブルは、近所の電工屋さんから銅撚り線φ8mmを提供頂いた。
(不必要に太い・・ 笑 ・実はこれ只で・・工事用の残材です) 対地GND処理は、A種接地相当です。
Audio用ACコンセントの筐体を、A種接地の技術要件を満足させる目的で、φ5.5mmをGND線に使用
し、端末処理は、油圧によるカシメ作業が必要でした。 ホット側配線が貧弱に見えます。(笑)
ACコンセントカバーは非磁性体ですが、筐体が磁性体で意味無く、鋳物筐体に銅箔を貼り付け誤魔化して(笑)おります。効果?? (配線は圧着処理・・写真参照)
(A種接地・・接地抵抗10Ω以下・接地線はφ2.6mm以上・高圧系の金属ケース等を接地する方式)
尚これを真似るなら、200V-100Vのノイズカット変圧器は、屋外に設置する事を強く推奨します。
理由は、トランスからの唸り音を低減する目的です。 これ消すのに四苦八苦・簡単に消せない。
変圧器が分厚い毛布で簀巻きにされ、鎮座する羽目に・・・唸り音の程度が読めず失敗。(涙)
拙宅では給電品質が劣悪で、この他に電源の力率改善処置を施しました。
採用した変圧器は、病院仕様です。(特注品)下記参照下さい。(唸り音にご注意)
http://www.denkenseiki.co.jp/datafolder/seihin/nct/nct-f34.html
給電ノイズ遮断性能に関しては・・こちらを参照下さい。
http://www.denkenseiki.co.jp/datafolder/seihin/nct/ncttop.html
拙宅の場合、Woofer駆動パワーAMPは、最低5kVA程度を投入しないと不足する印象。
欲を言えば更に上・・ (3kVAで、ソース源用機器類全てと、パワーAMP・8W×2chに給電)
電源事情が劣悪な地域は、ここまで投資しても効果が十分でない場合がありますので、あくまで自己責任で進めて下さい。 ともかくGNDをしっかり取る事で、言葉では上手く表現出来ませんが、システム全体の中高音の透明感・S/N感・サラウンド感・安定感が増したような気がします。
単なる趣味(気分)の世界?。(笑) しかし、音質改善は繰り返しますが投資と効果の自己満足度です。
個人的なお勧めは、やはり確かな100V入力タイプの波形矯正型交流電源装置ではないでしょうか・・。
ともかくパワーAMPを駆動する場合、電源容量をケチると満足行く結果は得られない事は確かのようです。 交流電源装置でも、対地GNDは必須でしょう。
200Vから100V変換にするとより効果的?だと言われますが、全てこうだと言い切れないですね。
(拙宅は劣悪・特に休日で電力需要が多い場合はNG) 以上、拙宅の失敗談を含んでご紹介して
みました。 このジャンルも、1発で納得が行く次元まで到達するのは困難と知りました。 この**程度を読むのは困難です。 投資金額が大きいだけに慎重に進めて下さい。
12-6. 電源の極性
第5回寄稿で解説しました、電源コンセントの極性で音が変化する理由への質問が、複数寄せられて
おります。 本件は、機密契約のグレーゾーンに踏み込んで、解説する必要がある為、第5回程度の表現で、ご勘弁頂こう・・と考えておりました。 予想はしておりましたが、やはり・・と言うか、この程度の内容ではご納得が得られず、改めてご説明致します。 これを完全に理解するには、電気回路の知識が必要となります。 ご質問者が、知識をお持ちであると想定した上で、再度記述させて頂きます。
まず結論から
電源極性をいちいち調べなくても、音質が良くなる手段は無いか? 答え: あります。
製品筐体シャーシを、直接対地アースに、しっかり接地すれば、理論上は解決する筈です。
給電極性を適正化すれば、何故音質が良いのか? このご質問に対し、図5-8を再掲載します。
単相2線式の給電手法では、筐体シャーシの対地GNDは必要ないのが運用基準です。
従い、商用電源のコールド側から見れば、製品筐体は厳密な意味で、GNDが取れていないのです。
この状態で、逆極性で機器を使った場合、何が不都合か?これを改めて解説します。
電気的な物理特性を、詳しく解析するには、等価回路と言う表現手法を用います。
図5-8を含め現象を電気的に、解析可能な次元で、回路を表現すれば、下記のように表せます。
等価回路の解説
まず製品筐体シャーシはGNDに接地されている・・と説明しますが、そのGNDを電気的に担保する
役割は、何処が背負っているか?・・・ここが全てのポイントです。
給電等価回路の、理想接地GNDと表現した部分のアースは、単相2線式給電では存在しません。
つまりシャーシGNDと申しても、一次側のコールド接地点から見れば浮いております。
では、何処で繋がっているのか?・・と言う疑問です。 シャーシ電位を担保するのは、変圧器内部の
結合容量C の役割なのです。 一般的に、Audio装置の接地電位基準は、この例では等価回路上の
CT(センタータップ)と呼ばれる位置です。(両波整流方式)・・整流回路は別途解説予定。
このCTタップと、製品筐体シャーシは電気的に繋がっております。(俗に言われる1点接地)
(真空管機器では、入力信号端子部で、シャーシと1点結合する事が一般的。)
変圧器本体は、シャーシ上に搭載されており、これは電気的には、変圧器コアー部と繋がっております。つまりCT端子は、シャーシを経由して、変圧器内部の結合容量Cで、一次側のコールド端子側と電気的に結合されております。 この結合容量Cとは、一次側の活電部と二次側を絶縁する時に発生する、浮遊容量と考えれば良いでしょう。 給電等価回路より、一次側のコールド電極(GND側)と、この結合容量Cで間接的に繋がった状態を、通常結合としましょう。
お尋ねのご質問は、変圧器内部で、コールド側巻線タップの位置と、巻き終わり側巻線タップの位置で、
上記 C結合程度が変化すると、理解して下さい。 分かり易く表現すれば、コールド側タップ位置を巻線スタート側に合わせる事で、筐体とのC結合程度が、最良になるように設計されている と言う事です。
一次側を逆極性に接続されると、このC結合程度が悪化します。 C結合程度が悪化すれば、筐体
シャーシ自体のGND状態が劣化 【商用電源の対地GND基準から見れば、浮き上がる分量が電気的に増加】 すると考えれば良いのです。この時に聞いて分かる程、音質変化を生むと言う事なのです。
故に、これを避ける為には、筐体シャーシを直接対地にGNDを取れば、対策出来る理屈です。
では筐体シャーシが、一次側のコールド側から浮くと、何故音質に影響を与えるのか? ここが本質です。
この疑問は、もし文系の方が読まれるなら、イメージとして感じて頂く他ありません。
ここでは信号伝送モードが問題となります。
信号伝送にはノーマルモード伝送(シングルモード伝送)と、コモンモード伝送が存在します。
ノーマルモード伝送からご説明します。
増幅処理されてノイズも信号も拡大します。
上記C結合程度が通常結合で、筐体
シャーシのGND電位が低い場合は、この
伝送モードになります。
Normal-Mode伝送は、信号位相にノイズが同相で重畳される と考えればOKです。
通常の製品として動作する場合、この信号伝送モードです。
コモンモード伝送
コモンとは同相と言う意味です。 この場合、ノーマルモード伝送に対しノイズ成分が信号入力側に
ホットとGND側共に同相で重畳される伝送モードです。等価回路を用いて、伝送原理をご説明します。
上記のC結合程度が悪くなり、通常結合状態から、シャーシ筐体のGND電位が上がれば、製品内部の
回路設計が、ノーマルモード伝送で設計されていても、コモン伝送状態に化けるのが根本原因です。
その結果、音質への不具合が発生します。この様子を下図に示します。
解説
増幅されたノイズと信号出力の一部は、浮遊容量を介して入力端子側に戻される。
戻された信号は、増幅器に対して信号+側とGND側両方共、同相で再入力される。 印 のライン
このように増幅器の入力側に同相入力する、伝送形態をコモンモード伝送と申します。
筐体シャーシのGND電位が上がれば、この戻される信号成分 が、コールド端子を基準として、変圧器内部で発生し、そのエネルギーは、浮遊容量を経由して入力信号端子側に戻されると理解します。
(この概念の理解が重要) 上図の浮遊容量経由の信号ループに、着目下さい。
ここで大切な事は、あくまでコールド端子基準で電気的にみれば・・の視点が重要です。
等価回路より同相注入時、信号ホット側は、元信号に対し加算モードですが、GND側は正規の信号方向と、戻されて来た信号の流れ方向は、位相が真逆であり、正規信号成分が悪影響を受けます。
この場合、浮遊容量経由で返って来る信号レベルは、周波数帯によって 「まちまち」 となります。
以上の結果、入力信号としては、本来のノーマル伝送モードから逸脱する事になります。
出力Audio信号は、前方定位感が定まらず、低い周波数は逆相感が発生するなどの弊害が表れる事となります。 以上の内容が電源逆極性時の、信号劣化問題に伴う詳細説明です。
ともかく、筐体シャーシを直接対地にGND処理すれば、済む話です。
この場合、システム全体を相互接続した時、ループハム雑音が乗るなら、一部のAudio機器だけ対地
GNDから浮かす必要があり、当該機器だけは電源極性を、合わせる必要が生じます。
厳密には、筐体シャーシは結合容量Cにより、一次側コールド端子からは浮いており、コモン伝送モード成分からの影響が、完全には避け難いとも解釈出来ます。 よってこれらの電気的な事象を一掃するには、筐体シャーシを直接対地GND処理すれば、全てすっきりします。 音質は原理的に改善される
方向となり、対地GND処理を強くお薦めします。又他の機器間との相互干渉に対しても有利になります。
この同相入力モードは、CMRR( Common-Mode Rejection Ratio)効果が存在し、平行伝送時には、
非常に重要な設計ファクター となります。 詳細は、別途小信号伝送で解説を予定しております。
ここまで解説すれば、単相2線式給電方式でも、商用電源の極性に無関係なAudio機器を設計する事
は可能であると、プロなら気が付きます。(費用対効果で簡単ではありませんが・・)
以上が、電源極性に関する、電気的な詳細説明です。 ご理解頂けましたでしょうか?
●電磁シールドと電界シールド●
余談ですが、この二つの意味は異なる話です。 電磁シールドには強磁性体を用いる必要がありますが、電界シールドは、非磁性体でも効果を発揮します。 即ちAudio信号に関係し発生する電解エネルギーは、銅・アルミ等の非磁性体を使っても、必要とするエネルギーをショートします。
極端な話は、極細金属を編み込み、向うが透けて見える程度の構造物でも、電界シールドは効果を発揮します。 従って、シャーシが全て非磁性体なら音質的には無関係になる・・、とは申せません。
結論は、Audio信号が流れ其処に発生する、電磁・電界エネルギーに対し、これ等の金属がどの程度の距離を持つか?。 このアイテムが音質設計上のキーワードになります。 これ等は、各製造 メーカーの重要ノウハウ事項になっております。(勿論非公開の範疇です)
§13. D級AMPの解説
13-1.動作原理
D級AMPの事をデジタルAMPだと喧伝しておりますが、厳密にはアナログAMPの一種なのです。
つまりデジタル信号をそのまま増幅し、スピーカーに送り込む形式のAMPは、一部を除きありません。
出力信号がHとLの信号のまま扱うので、一見デジタルに見えますが、実はこれはPWM信号と呼ばれる形式を使っております。 PWM (pulse width modulation) とは何?
意味は、読んで字の如しで ありまして、これはパルス巾変調と呼ばれる信号形式です。
波形的には図13-1のイメージです。 サイン波形の半分を例に取って解説します。
PWM波とアナログ信号の違いを図13-1に示します。
どちらも同じエネルギー量を持っておりますが、エネルギーを表現する手段が違います。即ち、音楽などアナログ信号は、時間軸上の連続した電圧変化そのものですが、PWM信号は図に示す如く、電圧の波高値はまったく同じで、時間軸上でH信号の時間巾で表現します。
つまり、アナログ量の振幅量が大きいエリアでは、H信号状態になっている時間が長く、振幅が下がったエリアでは、そのH信号の時間巾を狭くして表現します。
即ち、アナログ量の大小を時間の長短に変換し、表現するのがPWM方式なのです。
パルス状のH信号の巾を、時間軸上で変化(変調)させてエネルギーの大小を表現しますので、これを
パルス巾変調方式と呼びます。
D級―AMPと呼ばれるのは、全てこの原理で動作するAMPを指して呼びます。従い、単純なHとLで
表現するデジタル信号とは異なります。厳密な意味で、PWM波も一種のアナログ信号なのです。
この意味は電力を扱うパワートランジスターが、単純にOn/Offを繰り返す時間が変化するだけです。
これがデジタル的な表現に似ているので、デジタルAMPと表現される所以です。
ともかく、有限時間軸上で信号情報がぶつ切りにされている事は、デジタル信号処理の考え方と似て
おります。
通常のデジタル信号処理ではサンプリング周波数と呼びますが、電力を扱うPWM波では、信号処理
周波数の事を、変調周波数と呼ぶ事が一般的です。 電力処理部の、図8-5を再度掲載します。
この回路で、+Vmとあるのが、PWM波の最大電圧値で、変化しない直流電圧と仮定します。
電力用半導体 以下 FET(Field effect transistor) はPWM波を生成する動作を行いますので、
図8-5のQ1とQ2の接続点と、Q3とQ4の接続点ではPWM波が観測出来ます。
各FETの出力から出たPWM波は、スピーカーに行く前に図の如く、積分器を通過します。
この積分器を通過した後は、元のアナログ波形に変わっております。 よって、アナログ波形はスピーカーの中で合成され、元の連続したアナログ信号に戻されます。
通常のアナログ式AMPのパワーFETであれば、N-Mos 又はP-Mosと呼ばれる電力用素子が使われ
ますが、図8-5のようなD級AMPでは、まったく同じ形式のFETを用いる事が出来、これはD-Mosと
呼ばれる、電力処理用パワーFET(電界効果トランジスター)が使われます。
D-Mosとは Double-Diffused MOSの略です。 この素子は、SW速度が比較的速く、且つ大電力
を扱う目的で考案されました。 概ね200V以下の電圧領域で使い、変換効率が高い特徴があります。
少し専門的になりますが、N型の拡散層表面側に、低濃度のP型層と、高濃度のN+型層を、二重拡散構造で形成し、広いチップ面積構造とする事で、大電力素子を構成できます。
セル構造例を図13-2に示します。 On抵抗低減策でゲートを埋め込むトレンチゲート型も開発され、
その他各種のセル構造が開発されております。
広チップ面積化で大電流が扱えるようになりますが、それ故にGate-Source間接合部容量Cissを低減しにくいと言う、弱点を持つ事になります。
電流容量を上げれば、接合部容量を少なく出来ない。逆に申せば、PWM変調周波数を上げる事が困難であると言えます。(大電力時:max約800kHz程度)
現在のD級AMPは300kHz~550kHz程度を多用。小電力素子なら1MHz以上で動作する素子も存在します。
電力変換効率に直結する、On抵抗を小さくしようと試みると、今度は耐圧を上げる事が出来ない。
・・と言う特徴を持ちます。 On抵抗は80mΩ以下が一般的で、30A以下ならスイッチング損失は概ね
5W以下程度に収まり、100V以下程度の低い耐圧領域の製品に多用されております。
本稿の解説では、On抵抗は各種シミュレーション値を40mΩ/個と言う想定(優秀な半導体)で、ご紹介
しております。 素子耐圧は120V程度の素子を想定します。
このD-MosパワーFETは、BTL接続では同じ種類を4個使う事が出来ますので、マッチドペアーを神経
質に組まなくても、Audio装置に必要な性能が出せる と言う利点があります。
13-2.積分器とは何?
PWM変調周波数成分を除去する事で、元の連続したアナログ波形が得られます。
変調周波数は、Audio信号に使う場合300kHz以上の周波数を使います。変調波成分を除去する役割
が、積分器ですが、これは一体何?でしょう。電気的には実に簡単な事で、ローパスフィルターと呼ばれる回路から成り立っております。 図8-5と同じ機能を書き直した、等価回路を図13-3に示します。
積分器とは、図13-3の如くコイルとコンデンサを組み合わせたシンプルな回路になります。
この回路で変調波成分である、300kHz等の変調周波数成分を取り除きます。(ローパスフィルター)
上図でスピーカーに往復電流が流れると、スピーカーの+端子と-端子間にはの様な電圧が
発生します。
Audio信号にハイレゾを扱い、この信号周波数の上限を50kHzに上げるなら、PWM変調周波数を更に
上げて500kHz以上で駆動させた方が、理論上は有利となります。
既に550kHzで量産運用しており、まったく問題なくハイレゾの世界にも通用出きる設計が可能です。
電力用半導体がもっと進歩すれば、変調周波数が800kHzで設計可能となるでしょう。
その時は更に信号帯域を広げる事が出来ます。(実装設計が困難な領域となります)
通常ハイレゾと言っても、信号サンプリング周波数は96kfsで十分でしょう。 筆者は192kfsまでは必要
無いと個人的に考えております。 既に解説しました通り、信号帯域を広げる事でS/N劣化要因となっており、懐疑的です。 192kfsと96kfsで音質差を感じるなら、サンプリングレート以外のシステム的要素を判断している可能性が高いと考える者です。(fs=オーバー・サンプリングレート:例32 or 64を使う)
巷の評論家氏の声に惑わされず、ご自分の耳で確かめる事を推奨します。
D級の音質設計の最大要件の一つがこの積分回路にあります。
図13-3より、音質は積分用コイルとコンデンサの部品の物理特性に大きく依存します。
特に積分用コイルを構成する巻線の磁心の高周波帯域での物理特性が重要となります。
若干留意点をご紹介します。 (部品レベルの解説は別稿で解説予定)
Audio装置で重要な事は、この積分器回路の信号リニアリティーを如何に担保するか、という課題があります。若干その課題をご紹介します。
1)積分器用コンデンサの留意点
解説しました如く、交流電圧が当該フィルター容量に印加されます。 従って、電圧変化による影響で
容量値が絶対に変動してはならない事が重要です。
つまり、当該コンデンサは、高周波性能が優れるからと言って、絶対にセラミック系コンデンサは使えないと知るべきでしょう。 セラミック系コンデンサは、交流電圧を印加すると容量変化を起こします。
故に、DCライン上にのみ、高周波ノイズ低減用として使用する事が条件です。 (適材適所を知る)
2)音質への配慮
この回路に使える推奨コンデンサは、フィルム系コンデンサです。(素材により音質が変化します)
但し、容量性を確保できる周波数限界は、少なくても2MHz以上は欲しい処です。
更に、実装上で磁気対策と振動対策が存在しますが、インダクタンス系の設計を含め、別途部品と実装解説で説明する予定です。 これは、スピーカー用ネットワーク回路でも、まったく同じテクニックが要求されるジャンルの話となります。(PWM系は周波数が高いので、その分更にシビアな世界となります。)
スピーカー用ネットワーク回路は別途採り上げる予定です。
回路演算手法含め、そのタイミングで解説する予定です。
13-3.D級は何故変換効率が高いか?
図13-3に示す如く電力用FETは、単純にOn-Offをするだけなので、アナログ信号波形そのものが
通過している訳ではありません。
従ってFETの損失要件は、単純にSW動作がOn時の内部抵抗のみとなります。(高効率の要諦)
この抵抗値を今まで0.04Ωと紹介して来ました。 同時に2個のFETがOn-Offを繰り返しますので
内部抵抗を0.08Ωとして、各種シミュレーションをして来た次第です。
例えば4Ω負荷で300Wを駆動する場合、既にご紹介した如く実効電流は、スピーカーケーブルが3m
では8.64Aで、パワーFET内部での損失電力は2個分で、0.08×8.642 =5.97W と求まります。
半導体1個では約3Wに過ぎません。
●D級AMPのパワーブロック部の変換効率●
最大出力時の変換効率η=負荷抵抗RL÷(RL+(2×R-On+2×Rdc) ・・・13-1式
で求める事が出来ます。(概算式ですが、ほぼこの式で事足ります。アイドル分を除く)
この演算式はAMPのスピーカー出力端子で成立します。 Rdc・・積分器用コイルのDC抵抗値
スピーカーケーブル上の直流抵抗を、加味して演算する場合は、Rdc分に足し込んで下さい。
R-Onは、D-MosのOn抵抗分です。 RLはスピーカーのインピーダンス。
演算例
負荷端抵抗RL=4Ω FETのOn抵抗0.04Ω 積分器の直流抵抗Rdc=0.03Ωと仮定すれば・・
η=【4/4+(2×0.04+2×0.03)】×100=96.61% 300Wなら・・ 損失分の約10W分だけ駆動電圧を上げ
て設計すれば、スピーカー端子に所望の電力が得られる計算になります。
当然この時のRdcと、FETのR-Onの抵抗値は300Wを連続で出した時の、抵抗値で設計します。
(プロの世界では、半導体の接合部温度の限界値で、R-Onの抵抗値を演算し、これで設計します。)
同様に、負荷抵抗を8Ωに変更すれば・・ 98.28%まで変換効率が向上します。
つまり負荷抵抗が大きくなれば、AMPにかかる負担が低減し、変換効率も上昇する理屈です。
●アナログ式のパワーブロック部を検討してみましょう。●
アナログ式AMPの最大出力時の変換効率は、理論上は π/4×100=78.539% になります。
(図10-1参照)しかし、実際の設計ではアナログ式AMPの変換効率は70%が実力ですので、損失分は
30%にもなります。 この損失を能動領域に於ける損失と呼びます。
例えば、300Wを出すのに428.571Wを供給しないと、所望出力が得られない訳です。(モノーラル時)
その差分の約126Wを無効電力分の熱として空中に放散させる必要がある訳です。(ステレオで252W)プッシュプル方式では+側と-側を各々増幅しますので、片方の出力用半導体にはこの半分の約63W分が熱損失となる訳です。 これを1個のトランジスタでは賄う事は不可能ですから、例えば4個を並列に接続すれば、約16Wの損失を1個の電力半導体で背負う計算になりす。
(注)上記電力はパワーブロック限定の電力ですので、ドライバー段とか他の機能は含みません。
一方D級AMPでは、同じ時間内に於ける無効電力分は、On抵抗分に電流が流れた時の電力損失
となります。 300W・4Ωの例では、アナログ式の損失は126Wの処、D級は2個のFETで僅か約6Wに
過ぎません。 この無効電力領域をSW(スイッチング)損失と申します。
D級のアイドリング損失は、次回解説します。
D級AMPは、少ない熱損失で済むので、小型ラジエーターで放熱可能であり、電力用半導体もアナログ式の8個がBTL接続で、4個に減り、コストダウンが可能となり、顧客に還元できる事となります。
D級AMPは、能動領域で動作せず、スイッチング領域で動作しますので、上記アナログ式AMPのASO
領域とは異なる、スイッチング限界電流領域内で設計されます。
読者のメッセージ中に、D級AMPのスピーカー駆動能力の高さを賞賛される声がありました。
以上の解説でご理解頂けます通り、スピーカーを駆動する能力とは、単純に電源からスピーカーに至る迄の給電線路上に於ける、インピーダンス値で決まると申せます。
従い、スピーカーケーブル長も短く構成すれば、更に音質に磨きがかかると、申せます。
ここまでの解説で既にお気付きの如く、積分器の性能がD級AMPの音質を大きく左右すると分かります。
正しくこれは、スピーカーネットワーク設計の、ノウハウの一部が導入出来るエリアでもあります。
設計上は、部品への投資金額が大きくなるエリアですが、これは何処まで音質を追及するか?
製造 メーカーの、製品へのスタンス・思い入れが問われる、アイテムとなります。
アナログ式AMPとD級AMPの損失比較例
100W-B級AMPとD級AMPの電力変換損失を比較した例を、図13-4に示します。
(一対比較は出来ませんが、傾向を判断する資料としては使えます。)
解説
横軸は、負荷端に実際に出力される電力を表し、縦軸はその時の損失電力を示します。
(信号=サイン波1kHz) アナログ式AMPでは、1Wを得るのに22Wを損失し、同様に10Wなら53W、
100Wなら83Wが損失分です。
従って合計消費電力は、1W出力時に23W、10Wで63W、100Wで183Wを消費します。
(損失電力は、若干誤差を含みます)
即ち、変換効率は1Wで4.5%、10Wで15.8%、100Wで54.6%の変換効率となります。
同様にD級AMPの変換効率は、10W時には71%、100W時に86%となります。
アナログ式の場合、時間軸上で振幅が小さい程電力変換効率が悪い事に着目下さい。
以上の如く現実設計では、最大出力時に電力変換部では約30%程度が熱損失となります。
この損失分の中に、既に解説したASO領域が包含されます。
損失分は全て熱に変換されるので、空中に放散させる事が必要です。
注意)アナログ式AMPは、表示器など他の全ての消費電力を含んでおり、電力変換部のみの変換効率
ではありません。
(損失電力が70W付近で頭打ちになっているのは、給電性能の影響です。)
D級AMPはパワーブロック全体(駆動回路を含む)の特性です。
今日も紙幅が尽きました。 この続きは次回とさせて頂きます。
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