【Z・特別講義 3】


[ 自然界に分布する音響エネルギーとそれを忠実に再現することの難しさ ]

 

§第三回寄稿 御礼
第一回の寄稿に対しまして、皆様から暖かい励ましのメッセージを頂戴し、感激すると共に、身の引き締まる思いが致しております。(今回の執筆タイミングで拝読させて頂いております) ユーザー様に育て鍛えて頂き、今日まで技術屋の「はしくれ」として頑張って来る事が出来ました。その万分の一でもお返しする事が叶うなら。。との思いで執筆をお引き受けした次第です。

まだまだ浅学軽輩の身であり、皆様と共にこのジャンルの文化を育てて行きましょう。 皆様から頂戴しました大変貴重なご意見の数々は、可能な限り何らかの形で原稿に反映させて行きたいと考えております。

さて執筆手順ですが、設計の根拠について考える資料をご提供すべく、構成を考えております。の意味は、Audioシステムを使いこなす上からもそうですが、そもそもシステム全体は、一体何を根拠に設計されているのか? この総合的な見地から、Audio信号の記録・再生の実態・予め想定した家庭内での再生条件との適合性・・など大所高所からAudio再生システム全体の、工学的な成り立ちをご理解頂きたいと考えました。
自然界の現象面と工学的な限界との関係性を語り、私の立場上ご提供可能な範囲内で、情報を発信させて頂き、皆様とご一緒に考える場に出来れば真に幸甚です。

システムの成立根拠を理解するには、まず身の回りの自然界(人工音源を含み)の音響エネルギーの物理特性と、それを工学的に音響機器へとブレークダウンして行く過程を、ご説明する事で、システム全体の把握が出来るのではと考えます。
本稿では、製造側の経済的要素の縛りを排除し、純工学的な立場から解説を試みたいと考えます。
但し民生用機器としての経済性は考慮した上での、工学的アプローチの解説となります。
まず自然界の持つ音響エネルギーの実態を知る事が必要となります。
つまり何故そのような概念で設計されるのか?と言う次元の設計条件は、全て自然界が教えてくれます。 3回目もその延長上でのお話になります。

§2.自然界の音響エネルギーについて
Audio機器全般を構成するに当たり、基本的な考え方が存在します。
即ち、自然界が元々持っている音響エネルギー(音圧)の、周波数方向の分布特性です。
この自然界の物理量に従って、全ての製品は制作されます。
勿論人間の持つ聴覚特性に合わせて、設計仕様を構築する事が必須となります。

2-1.再生帯域
人間が聞こえる周波数範囲についての考察です。 人間は20Hz~20kHzまで聞く能力があるとされますが、既に述べました如く人によってかなりバラツキが存在します。
工学上の理想は100%の人々を納得させられる設計ルールが必要です。しかし2回目でご紹介致しました 如く、理想と現実のギャップは甚だ大きいのが現状です。
デジタル信号処理を例に取ってご説明します。 信号の伝送帯域は、人間に合わせて20kHz迄で良い・・としてCDプレーヤーの記録再生規格が制定されました。


具体的には、サンプリング周波数が44.1kHzと制定されました。
規格制定当初は、これで十分と考えられておりましたが、別の視点では、当時まだ半導体技術が十分に発達しておらず、伝送する信号のハイエンド周波数を上げられなかったと言う時代背景があります。そもそもアナログ式LPレコードは、当時既に高域限界は概ね40k~50kHz程度は再生可能でした。 しかしデジタル化時代に突入した段階で、このような高い周波数を処理する半導体技術が存在しなかった、これが実態です。

その後半導体技術の進展で微細加工技術が発達し、近年に至りやっとアナログ時代を凌駕する約92kHzまでのAudio信号を扱えるようになりました。
20kHzしか聞こえないのに、そんなに高い周波数まで伸ばして意味が無いのでは・・と申される方々が沢山いらっしゃいます。
では、アナログ式LPプレーヤーがいまだに消滅しないのは何故でしょう?。
そうです、信号の通過帯域巾がLPレコードと同等になる、96kHzサンプリングによる信号を再生した場合、アナログ時代の再生音質に近づく・・こんな体験はありませんか?。

我が家の再生装置でも、CDフォーマットで再生した時と、スーパーCDフォーマット(DSD)で再生した時では、明らかに差を感じます。 (ソース源にもよります)
この問題は、簡単に片づけられない深い意味を持っており、いまだ発展途上の問題を含んでいると筆者は認識しております。
その故は、サンプリング周波数だけでは説明できない、信号処理手法の問題も絡むからです。
更に、人間の持つ聴覚性能と自然界の持つエネルギーとの関係で、まだ十分研究され尽くしていない領域が存在する・・とも考えます。

ある研究では、20KHz以上の帯域にエネルギーを持つ音楽ソースを聞かせると、脳内にα波が発生する・・とあります。 このα波はリラックスした状態でないと発生しないとされます。
例えば、森林浴をするとリラックスしますが、森林内でエネルギーの周波数分析を行うと、20k~50kHz付近のエネルギーに満ち溢れていると言う報告があります。(葉のこすれ合う音など)
人間の聴覚特性と、超音波帯域のエネルギーとの関係は、まだ十分な解明が出来てないのが実態の様です。

現在到達している周波数方向のエネルギー処理に関しては、192kfsサンプリングで 概ね94kHz迄の信号を扱えるようになりました。
同時に信号の振幅方向の課題は、人間の聴覚能力に合わせると、2回目で解説しました如く約120dBが必要とされ、Bit数で申せば20Bit相当です。
現在24Bitが提供されていると、信じられておりますが、民生品の実態は最良品で概ね18Bitがシステムを提供する側の、現時点に於ける実力値です。

ダイナミックレンジ120dBを実現するのは、現在では一部のレコーディングスタジオだけです。
これは、かなり大規模なハードを投入し、やっと何とか実現している程度の大変困難な課題なのです。24Bitとはダイナミックレンジで144dBの世界です。

偽の
24Bitマシンは作れても実力としては民生機器の場合、当分20Bitが攻防線だと考えます。
上記性能は、半導体の発展に負う処が大ですが、現在ではAudio用の信号処理半導体開発を、
日本メーカーに頼るのは絶望的な状況です。(半導体業界の企業再編成の過渡期) 
工学上は微細化の進展で、信号処理スピードが上がった故に、192fsサンプリングの世界は実現しましたが、半導体に加える事が出来る電圧が大きく低下し、現在は1.8Vが主流です。
昔の半導体のデジタル処理部は、処理速度は遅いのですが、5Vで動作しておりました。
更にアナログ用の小信号処理用半導体の動作運用電圧は現在30V(IC)が最大です。
Audio用ディスクリート半導体は、高くても120V程度で、この値は昔から進展がありません。

よって、S/Nで言うS=信号電圧の大きさ方向は、この電圧が限界です。
故に、ダイナミックレンジを拡大しようと試みれば、N=ノイズ これを低下させる以外に手法が存在しない・・のが現状です。
しかし、別途解説を致しますが、物理上の理論限界に直面しております。
以上の理由で、人間のダイナミックレンジ要件を満たす工業的手段は、まだ存在しません。
これをブレークスルーするには、高い電圧で高速処理が出来る半導体の出現を待つ他なく、製品への展開は残念ですがこの実現はまだ五里霧中で、先は霞んでおります。
現実のハードウエアに落とせる限界について、もう少し探って行きましょう。

2-2.自然界の音響エネルギー分布
上記は、単に周波数方向で聞こえる・聞こえない の単純な論議でしたが、図2-1をご覧下さい。 これは、音楽信号の周波数方向に於ける音響エネルギー分布例を示しております。
このカーブは、一般的なフルオーケストラの、周波数対音圧分布特性の例です。



高域は、20KHzを越えて広く分布しております。(楽器の倍音成分)
このオーケストラの例ではエネルギーのピーク周波数は概ね400Hz付近にあります。
ここで着目して欲しいのは、400Hz付近のエネルギーを中心に、周波数が低い方向と、高い方向に減衰する特性です。この減衰カーブは、一定の物理法則に従って変化しております。
つまり、周波数が高い方向にも低い方向にも、周波数が2倍又は半分になれば、音圧は概ね-6dBvで減衰変化している。
電力で申しますと、周波数が2倍になったら反比例し1/2(-3dB)に減衰する現象です。
このような音圧特性を「1/周波数」特性と申します。


この傾向は、自然界に於けるあらゆる場面で同じ現象が見られます。
ピークエネルギーは音楽ソースによって大きく変化します。
ピークエネルギーはその大半が低い周波数帯に偏っております。
平均化したエネルギーは1/fの傾向性を捕えておりますが、瞬間的なピークエネルギーは別次元の話です。
即ち、工学的に申せば、周波数方向にエネルギーの分量を面積積分した場合、ピークエネルギーに対した最大電力量と、上記を勘案した時間軸上の平均電力量を同時に勘案してハードウエアを設計する必要があると言う事です。

一方でこれとは別に、自然界のエネルギー特性で
1/f揺らぎと言われる現象があります。
最近巷ではこの1/fゆらぎ特性を利用した扇風機が発売されております。
自然界に於ける神羅万象全エネルギーは、このルールに従って変動し、揺れると言われております。地球の自転周期の揺らぎに始まり、風力・波力・音波・雑音・熱の揺らぎ・・銀河宇宙の全エネルギーの揺らぎは1/fルールで揺れる傾向を示すと言うものです。

実は、人間の感情も同じルールで揺らぐと言われ、演奏する音楽も、テンポが揺らいでいる。
その例として、高速道路を走る車と車の間隔もこのルールで揺れている研究結果があります。
つまり、長距離運転する時 自分が先頭を走っていても、必ず遅い集団の中に組み込まれると言う経験を持ちますよね。 
この何台かの集団と、別の車の集団の間、つまり集団と集団との時間インターバル、即ち距離は1/fルールで揺らぐ。
正しくこれは運転する人間自身のバイオリズムが揺らいでいる証拠です。
一定スピードで走行するのは苦痛ですよね。 この揺らぎは心地よさに繋がるとの実験結果があります。

この1/f揺らぎとは何でしょうか?。 これは周波数が低い程 揺らぐ頻度が上昇する・・つまり周波数とは、この場合は揺らぐ周期ですから、揺らぎの周期が長くなるほどその頻度が上昇し、逆に短い程その出現率が低下する現象です。 
図2-1は400Hzにピークを持つ例ですが、1/f揺らぎは1mHzを含む超低周波の方向に向けて、反比例する変化となります。
実は・・導体の中を流れる電流も、この物理法則から逃れる事が出来ないのです。
この電流の揺らぎは、全て1/fノイズとなってスピーカーから出力されます。

さて皆さんは、Audioを楽しんでおられますが、ピンクノイズと言う言葉を聞いた事はありませんか?。これは、装置を試験する時に使うノイズです。
このピンクノイズは、実は太陽光線のエネルギーも、このルールで揺らいでおり、光パワーが周波数に反比例して揺らぎ、その周波数成分ががピンク色に見える事から命名されら雑音です。
このノイズは、どの周波数帯域で見ても音響パワー的に同じである為に、スピーカーのエージングによく使われます。 
一方半導体内で発生するホワイトノイズ(白色雑音)と呼ばれるノイズは、あらゆる周波数成分を均等に含み、オクターブ・バンドパスフィルターを通して測定すると、周波数帯域が上がるに従い、右肩上がりになる特性を示します。 

故に、これをエージングに使うとスピーカーには大きい負担となり、最悪ツイータを破損する事となります。
スピーカーのエージングには、ピンクノイズの使用をお勧めします。


<<テスト信号>>
http://www.toyo.co.jp/page.jsp?id=1686   ここにアクセスすればノイズデータが得られます。  

2-3.各種楽器の周波数帯域と音質傾向

各種楽器の周波数方向の音域を図2-2に示します。



パイプオルガンが最も広い音域を持っておりますが、低域側に寄る程音圧が上がる特性を示します。バスドラム(キックドラム)の基音は40Hz付近で、その倍音が80Hz付近だと言われます。
低音感の演出は、80Hz付近がピークとなる様に、ミキサーが工夫(加工)している様です。
40Hzを再生出来るシステムは少なく、80Hzにチューンすると(イコライザーで持ち上げる)一般的なシステムで聞いた場合に効果的で、迫力を感じます。


一般的にAudioで特に重要とされるのは、200Hz~800Hz付近とされます。
その故は図2-2からも推定がつきますが、各パートの楽器の音域が重なっており、情報密度が高く
暖かさとか、艶とか言った評価項目に深く係りがあります。 図2-1の音圧分布ともよく一致します。
更に概ね200Hz~500Hz付近はサラウンド成分(残響成分)が豊かにありますので、特に重要視する帯域になります。 更にエネルギーの減衰特性の滑らかさを重要視します。
100Hz以下の帯域は、迫力感に深く関係し、80Hz付近の処理に各種ノウハウがあります。


2k~5kHzの帯域は、等ラウドネス曲線からも分かる通り、耳の聴覚感度が最も高いエリアになります。この帯域では特に、透明感と柔らかさの評価に関連します。


特に、この帯域の物理特性が悪いと、騒々しい・固い・疲れる・・等と評価を受けます。
この帯域は、楽器の倍音成分を扱いますので、中~小レベルに於ける伝送性能が重要になります。
5kHzから10kHzでは、キラキラ輝くとか明るさを表現する帯域となります。
全ての帯域に渡り、〇〇の程度と言う、バランスの問題が重要となります。

低音不足を感じる場合は、意図してハイエンド領域のエネルギーをカットすると、全体のバランスが取れて気持ちよく聞ける・・と言うテクニックも存在します。
ですから、不必要にハイエンドを欲張ると、低音不足に泣く次第です。
この最低音周波数と、最高音再生周波数を、互いに掛け算した値が30万~60万と言う値を持つと、
心地良いと言う説があります。 (真偽の程は保証致しかねますが・・ 例:30Hz-20kHz)


§3.音楽ソースの記録レベル

音楽信号をマイクロフォンで拾って、これを電圧変化に変換し記録します。
レコード会社は、近年これをデジタル記録します。 その記録にまつわる話です。
上記の自然界の要求スペックに対し、今度はハード構成上の、物理的限界の話です。
全システム構成中最も大きい影響を与える設計要素が、この信号記録レベルの扱いです。


3-1. bitとは何?
マイクロフォンで電圧エネルギーに変換した信号は、A/Dコンバータ―(Analog to Digital Converter)でデジタル信号に変換されます。
ところで、この電圧エネルギーの最大値がデジタル処理される場合、業界規格で決まっております。
つまりフルビットと称される記録信号は、記録可能な最大振幅を与えるデジタル信号です。

つまり、フルビットとはこれ以上電圧を突っ込むと、飽和して歪むと言う電圧レベルです。
アナログ量の値は・・ フルビット=2Vrms です。 この電圧が記録可能な最大電圧です。
この値は、デジタル信号処理用の半導体に、加える事が可能な最高電圧で制限を受けます。
現状は、この最大電圧がシステム構成上の、ボトルネックとなっております。
言葉を換えれば、絶壁の如くの存在と申せましょうか・・。


この値を基準電圧とし、A/Dコンバータ―でデジタル量に変換しますが、その時の記録ルールをご紹介します。
その前に、フルビット(bit)に対して、16bit処理だとか24bit処理だとか申しておりますが、この意味は何でしょうか?
つまり電圧の総量を刻む段数の事です。 16bitとは 2e16=65536 同様に20bit=2e20=1048576 
更に24bitは、 2e24=16777216 の段数に電圧を分解してデジタルデータとして記録する仕掛けです。
もっと簡単に言えば、概ね 1bit=約6dB と覚えれば良いでしょう。(理論上6.02n+1.76dB n=bit
つまり16bit=6×16=96dB のダイナミックレンジを表現する能力を有する。


同様に20bit120dB  24bit144dBのダイナミックレンジを表現出来ると分かります。
ここでは16bitで説明しましょう。
電圧2Vを、65536等分します。(20Log65536=96.32dB)
1V=0dB として 2Vは+6dBVの事です。つまり 1bit分で、 そして1Vから下に15bit分まで表現出来ますから-90dBは・・0.0000315Vに相当します。(31.5μV)
検算してみましょう・・ 20Log0.0000315=-90.033dB
理論的には、このように微細な電圧が表現可能です。(雑貨品扱いでは80dB程度の品物が多い


3-2.デジタルレコーダーへの記録レベル
これを記録する場合の記録電圧と、記録媒体上の電圧の関係を3-1図に示します。
その昔テープデッキと呼ばれる記録装置が普及した時代に、0VUの表示があり、この上のレベルは
レッドゾーンを示していた事を記憶しておられる方も多いと思います。VU=Volume unit
つまり、ここが標準記録レベルと言われる基準電圧になります。
つまり 2Vから-15dB低い電圧が基準録音レベルとして運用されております。



一旦ハードディスク等に記録された音楽ソース源は、CDの円盤に再記録する場合、若干信号の圧縮処理がされ、基準点が飽和からー12dBで、焼き込み処理を行います。(圧縮処理しない場合もある)レコード会社でこの基準電圧の運用に若干の差異がある為に、各レーベルにより音量差が生じている様です。
その音楽ソース源の持つ最大エネルギー電圧が、記録媒体上の飽和点を越えないように記録レベルの運用が成されております。
例えば大砲のごとき爆裂音は処理出来ず、そのまま飽和した音を記録する事もあるようです。 

近年は信号圧縮する技術が進歩し、俗に言われるダイナミックレンジ圧縮が盛んに行われております。
一例を上げると、例えばFM放送局のNHKは音量が小さいですが、民放各局は音量が大きいと感じた事があると思います。
更に、民放では宣伝タイムになると急激に迫力のある音楽が流れる・・などの手法が取られます。
このカラクリもご紹介しましょう。



FM放送の基準運用レベル=飽和-10.45dB (正しくは30%変調)
音が大きく聞こえるのはダイナミックレンジ圧縮と言う操作が行われているのが理由です。
上図のAと言う信号の振れ幅に対し、圧縮をかけて、Bと言う振幅まで振れ幅を圧縮します。
このように運用基準より上では圧縮し、下の小さい電圧領域では持ち上げる。(伸長)
つまり、Aと言う振幅巾が、Bと言う振幅巾まで圧縮を受けた事になります。
小さい信号は持ち上げるので大ききく聞こえ、大きな信号は圧縮されて均されます。
この処理で、全体的にあたかも大きな音量に変化し、迫力が増した如く聞こえます。

このような圧縮曲線を持つ、方法を対数圧縮と呼びます。
CDソースの音楽も、殆ど大半はこの圧縮を受けていると言われます。(当然非圧縮ソースもあります)生の音では無く、電気仕掛けで作られた音が、主流を成すと聞きます。(売らんかな!の音作りでしょう)上記の破線で示した放送基準は、FM放送では基準変調レベルと申します。
FM放送局は、他局との間に余裕を持って受信周波数が割り当てられておりますが、この変調度が上がると、他局への割り込み現象が起きます。
これは受信妨害として常に海外で問題になっております。
特に自己主張が激しいUS地域では平気でルールを破る事が起きております。

3-3.LPレコードへの記録
その昔は、磁気記録式テープレコーダーに記録しておりました。 音楽スタジオでは記録スピードが
76cm/Secで、記録用トラックが42トラックと言うモンスターマシンで記録しておりました。
トラック数を上げるとS/Nが劣化するので、結局24トラックに収斂した経緯があります。
この時代の周波数特性は、アナログ式でも軽く100kHz以上の信号は記録可能でした。

信号のダイナミックレンジは、さすがに悪く、70dB程度が限界でした。(飽和とノイズ間の電圧巾)S/Nを稼ぐ手段としてノイズリダクション技術が開発されました。(dbx方式など)
磁気テープ上にアナログ信号を記録する場合、基準記録レベルが当然存在し、この場合は磁束密度で決まっておりました。(確か160pWb/mm2と記憶・ ピコ ウエーバー)
この基準を0VUと表示しておりました。 この時も磁気飽和から-15dBが運用基準でした。
磁気飽和は完全な?ソフト・ディストーション特性です。(歪は最良点で0.1%程度)
(これに対しデジタル記録は、飽和したらハードディストーション特性を示します。) 

これをマスターとして、LPレコードに記録した次第です。
民生機器の最高峰は、2トラック38cm/Secの時代でした。(10号リールは憧れの的・・)
当時・・ヨーロッパと日本で、上記の磁束密度が地磁気の影響を受け、その絶対値が定まらず往生した記憶が蘇ります。(日本で作成した基準記録テープが、高緯度地域のヨーロッパで拒否された)

LPレコードは針で溝をトレースし、横幅方向の振幅巾に信号を記録します。
この場合、磁気飽和から-15dBに相当する信号で、横振幅方向の分量を規定します。
RIAA特性(Recording Industry Association of Americaで低域周波数では振幅を押さえ、高域は持ち上げて記録し、再生時に逆特性で再生します。
カートリッジでこの溝をトレースする場合、この振幅量に追随可能な能力を、トラッカビリティーとして評価しております。

LPレコードになった次元でのS/Nはせいぜい65dB程度が表現限界でした。
アナログ時代のマスターテープ資産を、デジタル化してCD化する事が成されておりますが、マスターテープ上にはヒスノイズ成分があり、これをデジタル的に除去してCD化する事が行われております。
昔録音された音楽が現代に瑞々しく蘇って来た信号を聞くと、業務用に使っていた磁気記録装置の実力の程が良く分かります。
昔も今も記録レベルは、ハード上の飽和から-15dBで伝統的に運用されております。

強大なダイナミックレンジを持つ、音楽信号を記録する時、如何に飽和させず且つ平均記録レベルを上げるか・・ この勝負は今も昔も同じで、レコーディングスタジオのミキサー氏の腕にかかっております。
真空管式で制作された信号圧縮機の方が、音質が良い・とはミキサー氏の共通認識のようです。(笑)
これも時代の流れで・・・真空管式の機器は廃棄処分され今は語り草になりました。 (ご参考までに)その磁気記録装置も今はデジタル記録に代わりましたが、扱えるダイナミックレンジは120dBと大幅に改善しましたが、大振幅方向の信号処理には、現在でも信号圧縮装置が欠かせない存在です。

3-4.基準記録電圧と最大電圧
何故この記録レベルを採り上げたか・・もう既にお気づきになられた事と思いますが、パワーAMPが動作する平均出力電力時の音量が、この記録レベルによって差配されている。
よって、常にフルパワーで動作している訳ではない。 この事に気が付かれた事と存じます。この基準記録レベル付近で、何時も自分が好みとする最適音量に、ボリュームを操作している訳です。
イザと言う時は、基準位置から+15dB分の電圧に相当するパワーで聞いても歪まず再生する。

実はこの余裕はこの記録時の電圧余裕が握っている と言う事です。
対数で表しますと、20Logx=+15 Logx=0.75 10X=0.75 X=5.62
つまり1V基準なら5.62Vの電圧まで上昇しても問題ないと出ます。
逆に1Vでフルパワー動作しているAMPなら、-15dB下が通常聴取音量として運用する事になります。

各Audioメーカーが各社ばらばらに好き勝手に、自社の都合で製品を作れば、市場で破綻を来します。これを防止する目的で、業界内ではAudio機器間の相互接続ルールが存在します。
既にご紹介した送受間のインピーダンスに加えて、この信号電圧の規定が重要となります。
アナログ信号の接続要件の詳細を記述しておきます。(詳細は下記アドレスでチェック出来ます。)
http://www.jeita.or.jp/japanese/standard/book/CP-1203A/#page=1



基準動作レベル・・相互接続時の運用基準となる出力レベル。
             接続された相手側の機器の性能が得られる最低電圧

基準レベル  ・・ 接続された相手側の最終出力端子に、想定する定格出力が得られる電圧           基準入力と基準出力の両方合わせて、基準レベルと言う。

最大出力レベル・・CDプレーヤー等の出力機器が出す最大電圧レベル

最大入力レベル・・例えば記録用レコーダー等が受け取れる最大入力電圧

上記電圧規定の根拠を演算してみましょう。 基準電圧は2V(+6dB)です。
基準記録レベル2Vから下―15dBです。 電圧の絶対値は0.354Vと計算出来ます。
CDの基準記録レベル2Vから-12dB下ですから、電圧値は0.501Vと計算出来ます。
CDからプリメインAMPに入力された0.5Vの電圧は、プリAMPで1V程度に増幅され、この電圧を最終的な定格最大出力値まで増幅します。 (8Ω100WならメインAMPで+29dB増幅)

基準入力点の電圧0.5Vをボリューム最大位置で、フルパワーまで増幅する能力を有している訳です。しかし+12dB分の電圧が入力されると、パワーAMPは飽和します。
この値を見込んで、自宅では適正音量で聞く分量を、プリAMPのマスターボリュームで音量を下げる訳です。 上記の最大入力レベル2.8Vとは、他の音響機器への出力電圧に相当します。 
よって概ねプリAMP単体ではこれ以下の出力となるように設計されます。
概ね1~2V程度がプリAMP出力電圧となります。


如何ですか・・ここまで読まれたご感想は? 
人間の聴力限界音圧である120dB音圧は、2Vrmsと言う物理量で最大値が置き換わっている。
しかも、その電圧はデジタル処理する為に半導体に加える事が可能な最大電圧で決まっている。
従って、ダイナミックレンジを上側に拡大するには、高耐圧・ハイスピード処理出来る半導体の開発が必須である。
しかし半導体屋がギブアップして行き詰まっている・・これが実態なのです。
ここ20年以上は高速処理優先で、逆に絶対最大電圧はドンドン低下し、止まる処を知らない。
これは半導体のメモリー容量と密接な関係があります。 メモリーの容量と価格を考えて下さい。 
約15年前は容量が 1G と言えば高根の花でした。今は、16Gが千円以下で手に入る時代です。
つまりモリー容量を手にして、電圧が下がった次第です。
Audio業界には、現在逆風が吹いております。
こんなご時世に、Audio用半導体を懸命に守護し育成しているのは、全て海外メーカーです。
国内半導体がじり貧なのは、実は我々世代のアナログ技術屋の首を、徹底的にリストラして刈り込んだ。 
故に、後世代に技術の伝承が出来ず、肝心要のアナログ技術の開発基盤を失ってしまった
軽薄短小・ユビキタス時代と言う言葉に踊らされ、技術の本質を見失う経営を平然と行った故に、今頃になって慌てふためき アナログ技術者育成~・・と、声高に、経営屋もどきが 泡食って狂奔しているのが、現在の偽わらない姿なのです。
(アナログ分野で、現在日本は海外に大きく遅れました。ユビキタス時代にもアナログ技術は必須)


戦後日本の家電業界を牽引して来た優秀な技術者の大半は、被害者である事は歴史上の事実なのです。 心ある優秀な技術者は海外に頭脳流出・・ 経営失敗の付は、国内の全産業界に広く深く 深刻なダメージを与えております。

技術を蔑ろにした咎が厳然と表れているばかりか、経営責任を誰も取らない。
(皆で渡れば・・の何時ものパターンで、人災による原子力事故と同じ・・。)
リタイヤ爺爺い!・・の呆け話はブーイングが来ますので、この当たりで。。

お詫び!
スピーカーの能率について記述する紙面が無くなってしまいました。
次回記述との約束の処、反故になりすみません。 次回に繰り延べで ご勘弁下さい。(冷汗)
スピーカー音圧とAMPのパワーとの関係、聴取距離と音圧の関係など記述する予定です。


今回も お付き合い賜り、誠にありがとうございました。                   筆者拝

 

 

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