【Z・特別講義 2】


[人間の聴感特性 1 ]

 

§ 第二回 ご質問事項への回答
沢山ご質問を頂戴しておりますが、大切な事項と思われる項目から順次取り上げ、少しずつではありますが解説して行く予定です。
今回は、パワーAMPの入力ボリュームについて取り上げます。
ご質問の内容は、パワーAMP側のボリュームは常に最大にしておくのが良いのか?でした。
答えは単純明快で、常に最大ボリューム位置で運用するのが正しい取り扱いです。

実は、このご質問内容にはシステムの音質を左右する重大な物理的案件が内在しておりまして、その意味ではAudio製品の音質設計上の核心を突く、大変に鋭いご質問内容であります。
(この方は深い次元でご承知かと思います) 以下若干長くなりますが、お付き合い下さい。
大昔からAudio機器設計者に取って、悩みの種だったのが、この音量調節機能に伴う音質劣化問題であった次第です。
業界の裏情報を流す事は、リタイヤした者には禁じ手ですが・・・と、申しましても既にマニア層の方々には、古来より広く知られている 設計上の難題なのです。

誤解を恐れず単刀直入に申しますと・・
音質を最良に発揮させるAudio機器を開発せよ・・と言われると、少々乱暴な言い方をお許しいただくなら、音量調節機能を全て取り外す・・ この設計が解決策の一つなのです。
つまり何時も自分が欲しい最良の音量に固定して、この時に最良の音質を得る・・
この様な、あり得ないシチュエーションで設計すれば、物理的には最良品質に接近出来ます。

では今回のご質問に立ち返ってお答えを致します。
理由
1)パワーAMPが有るとは、必ずプリAMPが存在する筈です。 
システムのボリューム制御はプリAMP側で音量制御を行うのが一般的で、理に叶っています。

2)音量調節用ボリュームは音質劣化要因の一つ。
詳しくは、信号伝送で解説する予定ですが、信号伝送系の回路上に挿入される減衰器(アッテネーター機能)は、システムの中で一か所に集中配置し、信号の品質劣化を最小限に止めるべきです。
パワーAMPの入力側でボリュームを絞る行為は、パワーAMPのノイズを劣化させる方向に必ず働きます。
これは信号ライン上に抵抗が挿入される事ですから、必ず信号伝送線路上のインピーダンス上昇を

招き、理屈の上ではノイズ・歪劣化と、線路上の周波数特性劣化に繋がります。
パワーAMP側からプリAMP側を見た時、プリAMP側の出力インピーダンスが最小の状態で運用するのが基本ですが、この条件はパワーAMP側のボリュームが最大の時に限られます。
ともかく一切の抵抗成分を、信号伝送路上に持ち込まない思想が、音質最良に繋がります。
当然プリメイン型AMPには、パワーAMPの入力端子にボリュームは付いておりません。よって上記の物理的要件は、自動的に担保されております。


3)ボリュームの形態
通常ボリュームはスライド式又は回転式に係らず、カーボン(炭素)を塗布した抵抗体を使用しており、抵抗値の可変は、このカーボン上を接触子でスライドさせて、抵抗値を増減させる構造です。
この接触する圧力にムラが有るとか、長年使い込んでカーボン塗布分が擦り減りますと、ガリ音の原因となります。 又他長い間使わないで放置し、急に操作すると異音の原因となります。
このカーボン抵抗による音量調節の部分が、大きく音質を劣化させる要因となっており、古来数々の改善トライが為されております。
カーボン抵抗ではなく、機械接点式アッテネーターを用い、固定抵抗の組み合わせで減衰器を構成するのも、改善策の一つです。
その他、純電子的に、信号回路のインピーダンスを上げず、音量を調節するマジックが存在します。
この内容を紹介したら、筆者が過去勤めていた会社の名前が分かってしまうのですが・・。(冷汗)


4)何故メインAMPにボリュームを付けるのか?
当然このような疑問が生じます。 それは、例えばプリAMPとメインAMPが別の製造会社であった場合、最悪パワーAMP側で増幅度が過剰になり、プリAMP側で制御が出来ない恐れがあります。
その為に、クレーム防止でGain調整機能を付与します。
高級品では、固定抵抗器の組み合わせで、減衰器を構成する例が多い様です。
よって、システムの音量をプリAMP側で制御可能ならパワーAMP側のボリュームは常に最大位置にして運用するのが、音質劣化の要因を排除する正しい手法となります。
一部の超マニアの方は、この音量調整回路さえ、意図して削除する改造を行う程です。
(製品内部の改造は、危険であり推奨出来ません。)
我が家の真空管AMPはボリュームの代わりに、入力端子とGND間に100kΩの固定抵抗でシャント(ショート)しております。
この抵抗が癖者でして・・温度が上昇すると熱雑音となり、S/N劣化の要因を成します。
そのカラクリも別途解説させていただく予定です。


5)結論
プリAMP側の出力インピーダンスの値に応じて、パワーAMP側のS/Nが決まる事を、是非ご理解

下さい。 当然出力インピーダンスは小さい程、Noiseの分量は少なくなります。(限度有り)

Audio機器間の相互接続ルールは、業界で技術的な規格が制定されております。
国内では、JEITA CP-1203 に制定されております。

   http://www.jeita.or.jp/japanese/standard/book/CP-1203A/#page=1
ご興味のある方はご覧下さい。
この内容をごく簡単にご紹介すれば、Audio製品を供給する側が担うべき、最小限のルールとして下記の内容が制定されております。

     (1)信号源の送り側のインピーダンスの最大値は2.2kΩ以下である事
      (2)信号を受け取る側のインピーダンスの最小値は22kΩ以上である事

上記の接続規格を含み、入力インピーダンスとS/Nの関係など、後刻具体的な数値を入れて性能変化をご紹介する予定です。

システムを組んで最初に電源を投入する時、メインAMPのボリュームはMin状態にした後、音量を確認しながら、運用レベルを決める手順を踏まれる事を推奨します。スピーカーの破壊防止

6)音量調整回路とシステムの音質
繰り返しますが電力AMPの入力側は、プリAMPの出力インピーダンスでシャント(ショート)されている。この条件の時に、最良の能力を発揮します。
S/N、周波数特性、歪など物理特性を改善する最大要素の一つなのです。
ですから、その意味ではプリメインAMPの方が、総合性能としては設計しやすい事は事実です。
但し、音質を左右する要因はこれ以外にも大きい岩盤があり、プリとメインを独立して商品化するのが最高品質を目指す場合の直道となる次第です。


前振りはこの程度にしまして・・
プリAMP側に搭載されております、マスターボリューム(システムの音量制御を一括して取り持つ部分)の物理性能で、上記に述べた事と同じ事が言えるか?
答えはイエス! まったく同じ事がマスターボリューム回路についても言えるのです。
従いまして、冒頭に申しました如くシステム全体の増幅度(Gain)を、回路設計で作り込み、スピーカーから出る最終音量を決めてしまえば、音量調節器は無くせます。

つまり、この時にマスターボリューム前段の増幅器の出力インピーダンスが最小の状態で、次段の信号処理回路に接続できる、・・・ こんな理想的な回路が出来上がります。
当然この状態の時に、電気的な諸々の物理的特性は最良の値を示します。

さて ここからが問題の本質です・・
既に解説しました如くマスターボリューム前段と、後段の増幅回路との間に減衰器を挿入しないと音量調節機能には なり得ません。
減衰器とはインピーダンスの増大を意味します。 そしてこのインピーダンスの増大こそが諸悪の根源でした。 ここで考え方を がらっと変えまして・・、電気的な物理性能を保ったままで、回路の増幅度を自由に変える事が出来たら、同じ効果が有るのでは・・と考えた人が多数おりました。


純アナログ時代では、可変Gain増幅をしますと電気的な物理性能がボロボロになって・・原理的に無理である。 この事は大昔から回路設計の常識だったのです。 やりたくても出来なかった!。
ところが・・
近年デジタル化が進展し、デジタル処理の一部と、アナログ回路との組み合わせなら出来るのでは・・・・と、筆者が考えたのが、今から約22年も前の事です。 (古くて新しい問題)
当時マイコン制御で音量を純デジタル的に制御する事を業界で最初に行いました。
勿論特許が成立しましたが、今はもう切れております。(特許の有効期間は出願後20年)
この技術をリニューアルし、ごく最近でも某Audio専門メーカー殿が同じ原理で、新製品を発表されて おります。  具体的には・・
少々専門的になりますが、手法は電流から電圧に変換する回路(I/V変換器を使い、この電流量をデジタル制御する事で、電圧量を制御すると言う仕掛けです。

電流量は、ロータリーエンコーダーと言うインターフェースを用い、信号に相当するDataには一切手を加えず、マイコン制御で電流可変をすれば、電子ボリュームが出来上がります。

こう記述すれば、分かる人はピンと閃いたと思います。
性能は開発した当初本人が驚愕する程の驚異的な性能 であった事が思い出されます。
何だか自慢話になって来ました。。(笑・・失礼)



この技術を使って、お商売をしている関係者が居りますので、これ以上 立ち入る事は遠慮します・・が、その音質は絶品である筈・・・筆者が太鼓判押します。
22年前の元祖開発者は、筆者と現役の老技術屋の2名です。
現在でもこの水準を上回る手法は開発されていない筈?です。
ちょっと ご紹介音量を絞った時(確か40dBと記憶)の、諸々の電気的な物理性能が、ボリューム最大位置と比較して劣化極小・・ こんな表現でご理解いただけましょうか。。。
音量制御に伴う音質劣化が殆ど存在しない・・このような夢のような製品が出来上がった次第です。

アナログ回路で構成した電子ボリュームを、マイコン制御するのは今でも一般的ですが、デジタル信号処理とアナログ信号処理との合わせ技で、マスターボリュームを制御する事は、投入するコストが嵩みますので、今でも一部の高級品に限定し採用されているようです。
予算に余裕のある方は、是非お勧めしたいものです。 なんだか某メーカーの回し者的な発言ですが・・筆者はこのメーカーと何の関わり合いも ありません ので念のため・・(笑)

ちなみに、コスト的にはアナログの機械式ボリュームがまだ主流ですが、このガリオームと呼ばれる経年変化には頭が痛いですね。 ともかく、機械接点式であれ摺動式であれ、機械的な介在の経年劣化は避けられません。接点復活剤なる対策もありますが、これはお勧め出来ません。(音質劣化要因)
お手数ですが・・、製品メーカーに依頼され部品交換するのが最も正しい対処方法だと思います。但し製品サービス期間は法的に7年と言う縛りはありますが・・製造 メーカーにご相談下さい。


ちょっと一般的な話では ありませんが、お付き合い下さい。
機械式ボリュームをシャーシに止めている螺子にご注目下さい。
この螺子とシャーシの間に、厚さ数mmの銅ワッシャーを挿入すると、音質向上につながる。
こんなテクニックがありますが、ご存じですか?
もし変化無ければ、その対策を施す前にまだ為さねばならない改善要因が他に残っている証拠です。何か対策しても効果が無い場合、その人物の言う事は信用できない・・と一刀両断にせず、その対策を施しても、その効果をマスクする邪魔な存在が居る・・と考える事が、Audioの趣味を豊かにします。そして、製品を開発する現場でも、そのような考え方をし 改善に取り組む次第です。
何かのご参考になれば幸甚です。


さてAudioの趣味には、投入努力と得られる結果のバランスが重要だと思う次第です。
最高性能を求める場合、それに見合うコストも認めていただかなくては、製造 メーカーとしては、成立しない次第です。(汗)
しかし、ユーザー様は厳しいです!。 より安く・より高品質を これが世の常です。
他のいかなる業界でも同じ事と申せましょう。 そこに技術の進展があると思います。


上記にご紹介した、デジタル制御式ボリュームはLSI化され某メーカーで長年製品に搭載され、使用 され続けて来ました。(今でも基盤技術として商標登録され使用されていると聞きます)

リタイヤ者は、これ以上発言は出来ませんが、LSI化もコスト低減におおいに役立っております事を付記し、この案件は了とさせて いただきます。


今回配信の主題は人間の聴覚特性です。誤りがあれば又ご指摘下さい。



§1.人間の聴覚特性
1-1.等ラウドネス曲線
これは別名フレッチャー&マンソン特性とも申します。
1930年代にベル研究所に勤務していた人物の名前で、フレッチャー氏とマンソン氏が、人間の聴覚を研究し、米人を使ってその聞こえ方を初めて明らかにしました。
当初この測定データが使われておりましたが、近年に至って見直され、新しくISO規格として改定されております。 本稿では、新規格の方をご紹介します。 まずは、図1-1をご覧ください。

縦軸は音圧を表し単位はフォーンです。横軸は周波数で16Hz~16kHzを示します。

ゼロ(赤)ラインは1kHzの時人間が聞き取れる限界音圧を以て0dBと規定しています
その音圧から+20dB毎に音圧を上げて行き、各周波数で聞き取れる限界音圧を結んだカーブを表します。
つまり等しい音圧を与えた時に、人間の耳が反応(聞こえる)する周波数特性を示します。
各々等しい音圧を20dB~100dBまで変化させて、人間の周波数方向の聴覚特性を測定したものです。
このグラフの意図する処は、人間は500Hz以下の周波数の音には鈍感で、3~4kHz付近が一番聴覚感度が高い事を意味します。
更に音圧が低い程、500Hz以下の周波数では聞こえる感度がより鈍くなり、80phoneを越えた辺りから、やっと周波数特性がフラットになる と言う聞こえ方をする。
同様に5kHz以上の帯域でもこの傾向があり、10kHz付近に向けて急激に感度が鈍くなる傾向を示します。
つまり音圧が下がれば低音も高音も、良く聞こえなくなる特性をしている訳です。
そこで、音量が小さくなるに従って、このカーブの逆音圧を、Audio機器に与え周波数方向がフラットに聞こえるように補正するのが、ラウドネス補正と呼ばれる機能です。


図1-1から分かる通り、0dBのISO新規定カーブは、破線の元々描かれたフレッチャー&マンソンのカーブと異なります。
このカーブは聴覚限界カーブが新たに計測し直し、修正されたものです。
何れにせよ、ここでは0-phone(dB)とは、1kHzの信号で人間が聞きとれる限界の音圧である事を覚えて下さい。 尚高い周波数領域での聴覚限界は、人によって又年齢によって大きく変化します。
高齢者程この高い周波数の限界値は劣化する傾向にあります。
特に4kHzから上の帯域で劣化が激しくなり、女性の方が劣化の低下が少ない傾向性が有るようです。
筆者の20歳台に於ける可聴周波数限界は18.6kHzでしたが、20kHz以上が聞こえる人も居るようです。 逆に若くても15kHzが聞こえない方もいらっしゃいます。


低音方向は、概ね20Hzと言われますが、それ以下の強い音圧は皮膚感覚として感じるようです。
パイプオルガンの最低音は16Hzですが、風圧として皮膚感覚で感じ取る世界のようです。
特にこの帯域を 「くすぐられる」 と感情が誘発される様です。(宗教的感覚・ヨーッパの教会で体験)
逆に、超低周波振動を連続して受けると、三半規管に障害が発生じ、体調を崩す事が知られております。(高速道路に於ける 橋の超低周波振動)

Audioマニアの世界では、サンサーンスのオルガン交響曲と呼ばれる第三番の、パイプオルガンの超低音が出るか否かで再生装置の限界を確認するようです。
(我が家の真空管ドライブのAMPでは絶望の世界)
真空管式AMPと半導体式AMPの違いが最も良く分かる再生ソースとして活用されます。
ちなみに重度難聴の方は、81dB以上の音圧を受けても聞き取る事が出来ないレベルとされます。
健常者の定義は、25dB以下のささやき声をキャッチ出来る音圧とされます。
(耳鼻科のオージオメータで計測出来ます)

1-2.音圧
ここでは、もう少し工学的に解説をしてみましょう。 音圧とは、音による大気圧からの変動分であると定義します。単位はPa(パスカル)最小可聴限界音圧は、20μPaで表します。(マイクロパスカル・・・10-6 )
つまりこの聴覚限界音圧を0dBとして、大きい音圧方向に表現します。大気圧の1気圧は・・・(1m2の面積に1N(ニュートン)の力がかかる圧力)では強い音圧方向で鼓膜が耐えられる最大音圧はどの程度?・・概ね120dBと言われます
ジェットエンジン後方3mでは140dBと言われ、鼓膜が破れる音圧だそうです。(書物レベルの情報)

音圧レベル SPL (Sound pressure level) と生活空間上の事例をご紹介します。

SPL Pa (N/m2)         音圧事例

0dB ・・・ 2×10-5(Po)    聴覚の下限

20dB ・・・ 2×10-4       ささやき声・深夜の郊外など

40dB ・・・ 2×10-3      静かな事務所・静かな住宅街など

60dB ・・・ 2×10-2       静かな車の室内・昼間の街頭など

80dB ・・・ 2×10-1     地下鉄の車内・騒々しい工場など

100dB ・・・2×100       約3m離れた処での自動車の警笛音・ガード下の騒音など

120dB ・・・2×101       聴覚の上限 (ジェットエンジンの後方)

この音圧SPL値を式で表すと・・0dBをPoとして
SPL=20×Log Pa/Po (dB)? Po=2×10-5 (Pa) と表す事が出来ます。
尚このSPLのdB値と、スピーカーから放射される音圧のdB値の間には、相関性はあるものの、dB値をそのまま比較出来ませんので、十分ご注意下さい。(スピーカーからの放射はdB/m/W)
詳細は、次回のスピーカーの変換効率の処で採り上げる予定です。


1-3.Logを使ったデシベル表示について
のっけから、数式が出てきて申し訳ないですが、対数(Log)の概念はAudioの趣味を深く理解する
上で、切っても切れない程、重要な概念です。 対数のLogについては、音工房Z様の講義で既に
ご存知だと思いますが、以下このLogの値は、今後頻繁に取扱いますので、是非マスターして下さい。文系の方は馴染めないと思いますが頑張って!トライして下さい。


人間の感覚は刺激量のLog値に比例する という特徴があります。
これをウェーバー・フェヒナーの法則と申します。(味覚にも適用可能と聞きます)
つまりAMPの増幅度を表す時、10000倍とか100000倍とか・・又ノイズが1/1000とか、1/10000とか表現されても感覚的にピンと来ません。
そこでLogと言う概念を導入すると、物理量の表現が人間の感覚と一致する。
これが、人間の感覚は刺激量のLog値に比例すると言う事です。


音圧の値をデシベル(dB)で示しましたが、このデシベルとは一体何でしょうか?
この表現手法は、相対的な表現方法絶対値としての表現方法の何れにも適用出来ます。
例えば増幅度を表す場合・・
入力電圧を・・A 出力電圧を・・B と仮定すると このBとAの比が増幅度を表します。
例えば入力電圧が1Vであった。 出力電圧が100Vであった・・とします。
そこで・・対数表示では
ある基準量Aに対して、変化する比がBであるなら ・・    10n= B/A   の関係と表します。
対数で表すと、 Log[10] B/A   =n と表現します。
この102の事を底(てい)と申します。
上記の1Vに対して10Vは、数の桁が1桁大きいですよね。 同様に100では2桁・1000では3桁と上がって行きます。
つまりベルとは、対数の底が10の常用対数を採る場合の単位を言います。
ベルの量を10倍する事を表す為に、これに10-1を意味するデシを追加してデシベルと称します。
理屈抜きでそんなもんだ・・と覚えて下さい。(定義は忘れてもOK)
全体として・・10×Log[10] B/A dB(デシベル)と表現出来ます。
こ4の演算手法は、エネルギー(電力量)や スピーカー音圧の比較に使用されます。
ここで採り上げました電圧増幅度は、電子工学では電力比較として扱われます。
つまり、電力表現は電圧の2乗が電力比となりますので。
上式は電力比の2を掛け算して   20×Log[10] B/A dB が増幅度を得る演算式となります。

具体的に・・100/1は102ですよね ・・ ですからLog100=2 と表す事が出来ます。
デシベル(dB)で表現する場合は、これに20を掛けるとOKです。
ですから電圧増幅度100倍は ・・ 20×Log100=20×2=40dB と表現します。
この例は、増幅度ですが電圧の減衰量・S/Nなどは全てこの演算手法で表します。
(底が10の場合は表示を省略します)
同様に ・・1000000は? 10の6乗です ですから Log1000000=6 
デシベルで表すなら 20×Log1000000 = 20×6= 120dB と表現出来ます。
増幅度を表現する時、100倍とか100万倍と表現されるよりも、人の感覚は対数のLogで比較した方が膚間隔にマッチします。



それでは100倍と100万倍を比較した時のエネルギーの落差は??
・・と問われてもピンと来ませんよね。
そこでLogを使えばいとも簡単に比較が出来ます。
100万を100で割り算して割合を出します。
割り算はLogを使えば、指数同士の引き算で表す事が可能です。 ちょっと試してみましょう。
1000000(106)÷100(102 )=10000(104)となる処、Log表示では・・Log106-2
 Log104=4  と計算出来ます。
   これに20を掛けて80dBとなります。
1万80dBである・・と表現出来ます。


この逆に掛け算は、Logを使えば、指数同士の足し算で表す事が可能です。試してみましょう。
100(102)×1000000(10)=100000000(108)となる処、Log表示では ・・ Log(102+6
Log10e8 と表せます。
これに20を掛けると160dBとなります。
・・・1億と言われてもピンと来ませんが、dB表示すると分かり易いのです。


以上を整理すると ・・ 1Vを0dBとすれば 電圧値が大きくなった時のdB値は?

20×Log10V=20×Log1=20dB

20×Log100V=20×Log2=40dB

20×Log1000V=20×Log3=60dB ・・・・・・単位はkV(キロボルト) 103

20×Log10000V=20×Log4=80dB

20×Log100000V=20×Log5=100dB

20×Log1000000V=20×Log6=120dB・・・単位はMV(メガボルト) 106

つまり桁が1桁上がる度にdBの値が、20dB上がると理解すればOKです。


この逆に今度は小さい方向に変化した場合は??
まったく同じ理屈で、頭に-の記号を付ければOKです。

-20×Log0.1V=-20dB

-20×Log0.01V=-40dB

-20×Log0.001V=-60dB ・・・・・・単位はmV(ミリボルト) ? 10-3

-20×Log0.0001V=-80dB

-20×Log0.00001V=-100dB

-20×Log0.000001V=-120dB・・・単位はμV(マイクロボルト)10-6

電子工学の世界では、下記の単位をよく使います。(1m基準)

103・・k     106・・M(メガ) ? 109・・G(ギガ) ? 1012・・T(テラ)

10-3・・mm  10-6・・μ? 10-9・・n(ナノ)?? 10-12・・p(ピコ)  この他10-10・・Å(オングストローム)

以上の事が、趣味とどのような関係があるか? と疑問が出ますよね・・。

下記をご覧ください。 既に真空管AMPの周波数特性の紹介で出て参りました。 




周波数方向の目盛りにご注目下さい。右に行く程、桁が上がる度に詰まっております。
このように周波数の高低を対数で表す、このような表現方法を対数表示と申します。
対数表示すれば、数値の表示レンジ巾が極度に大きい場合に役に立ちます。

一方縦軸は目盛りが均等表示です。 このような表示方法をリニア-表示と申します。
前回解説致しました、増幅器の歪特性のデータは縦軸と横軸が共に対数表示をしております。

このような場合は、入力量と歪量がきちんと比例関係にある事を証明する時に便利な手法となります。入力電圧と出力電圧の関係も比例関係にありますが、歪カーブと同様に比例関係として扱う場合縦軸と横軸を対数表示で扱います。 一方電圧の周波数特性のように、電圧と周波数が比例関係に無い場合、縦軸はリニア-表示する方が、変化量としては分かり易く表示できる次第です。


1-4.聴覚の音圧差検出能力
人は両耳を使い、例えば1kHzの周波数(サイン波)を特定の音圧で聞く場合、この音圧変化がどの程度変化したら、音量が変化したと認知するか?。
一般的な人は、電圧比で3dB変化した時に、はっきり変わったと認知出来ます。
業務分野で働くミュージシャンとかミキサーの方は、個人差はありますが、1.5dB~2dBの変化で音量が変化したと認知出来ます。
業務分野を除き、この音量変化の認知限界である、電圧比で3dB変わるポイントを、Audio機器を設計する場合の物理量の拠り所として扱います。
電圧比で3dBとは・・此の倍率を正確に演算すると・・

20×LogX=3dB ⇒ LogX=3/20=0.15 ⇒ 10X=0.15 ⇒ X=1.412538倍
元の電圧に対して1.412538倍した値で音圧が変化したと認知します。
電力比では1.5dB分の変化となります。 (-3dBなら 10eX=-0.15? X=0.707946

そこでAMPの信号伝送系で、この電圧変化分が下記の如く減衰したと仮定しましょう。 



図1-3の如く増幅回路の物理データが得られたと仮定します。
電圧で-3dB落ちる点の周波数ポイントを、遮断周波数と申します。
上図では、20Hzから200kHzの範囲が、-3dB以内の電圧を有しております。
この20Hzから200kHzの間の周波数を、通過帯域巾又は通過帯域と申します。
減衰ですから・・1Vの値に対しては、電圧が0.707946Vになった時電圧で-3dB低下した
事になります。 伝送線路上の周波数特性は、この通過帯域巾で評価します。よって、フラット
な周波数特性から-3dB低下した処の周波数を以て、設計上の物理量として評価します。


バランス伝送
対数計算では1Vを0dBとして演算しますが、バランス伝送の時は別の基準を使います。
小電力の信号は、一般的にインピーダンスを600Ωにマッチングさせて伝送します。
つまり、信号の送り出し側のインピーダンスが600Ωなら、信号を受ける受端側のインピー
ダンスも600Ωにします。 この事をインピーダンスのマッチングを取ると表現します。
この意味は、送り出し側と受け側のインピーダンスが等しいと、伝送電路上での減衰が理論的
に無視出来ます。(長距離アナログ伝送が可能)詳細は別途趣味範囲で解説します。
この場合、600Ωと言う抵抗は決まっており固定ですから、この線路上を伝わる実効電力量
1mWを基準として定め、これを伝送特性の基準電圧0.775V rmsとします。
計算してみましょう。

電力はP=Vm2/2R よりピーク電圧Vm=√2RP =√(1.2×130)(1×10-3) =1.095445Vpp
電圧の実効値はこのVm値を√2で割り算して・・0.774597 ⇒ 0.775Vrmsに丸める。
以上の基準をdBmと称します。 0dBm=0.775V rms
1V基準のdB表示は、0dBV=1Vrms 同じ意味で0dBs1V rmsとも表現します。
製品性能のカタログ表示を読む時の、知識としてご活用下さい。(rms=Root mean square実効値)
電力演算は別途詳しく解説致します。Audioの趣味を深める為の要です。



1-5.マスキング効果とその応用
人間の耳の聞こえ方の特徴として、マスキング効果があります。
この現象は、例えば静かな部屋ではシー・・と言う自分の耳鳴りが聞こえます。
しかし、周囲の騒音が高い雑踏などの場所では、この耳鳴り音は聞こえなくなります。
このように、大きい音圧環境に曝された時、微小な音がマスクされて聞こえなくなる現象を
マスキング効果と申します。人間のこの特性を利用して、Audio機器に応用されております。

例―1)Dolbyノイズリダクション
一頃アナログ式テープレコーダーで広く使われました。一般家庭用にはB-Type方式が使われ
テープレコーダーのヒスノイズの低減策として、長い間スタンダート技術として活躍しました。
後に改良されて、その効果を上げたDolby-C-Typeが登場しました。
筆者もこの技術開発段階から参画した一人です。
これは、信号レベルが大きいエリアでは記録時の補正を行わず、記録レベルが小さくなった領域
でのみ高域を上昇させて記録し、再生時にこの逆補正をして、高域のヒスノイズを低減する技術です。既に過去の技術です。

例―2)ATRAC
デジタル時代でもこの効果を利用し、デジタル記録するデータ量を圧縮する技術があります。これをATRAC方式と命名しました。(Adaptive Transform Acoustic Coding)この原理は、例えば1kHzを例に取って説明しますと、1kHz周辺の例えば900Hzとか
1100Hzの近傍の小さい振幅成分は、1kHzの振幅成分が大きい場合、マスクされて聞こえ
ないと言うマスキング効果の原理を応用し、通過するデジタル量を圧縮し、記録メディアへ
の負担を減らそうとする技術です。 圧縮する処理帯域を3種に分け、各々圧縮処理しますが、この方式は非可逆圧縮と呼ばれ、一度圧縮したら、元の信号には復帰出来ない特徴を有します。これはミニディスクに採用されました。
現在はデジタルデータの可逆圧縮が主流となりつつあり、Audio用途としての大きな役割を終えた感があります。 詳しくは下記をご参照下さい。

http://ja.wikipedia.org/wiki/ATRAC

1-6.カクテルパーティー効果
沢山の人が雑談している騒音の中でも、自分に関係がある特定の情報だけピックアップして聞き分ける事が出来る能力を指して、カクテルパーティー効果と申します。
これは選択的聴取能力とも言われ、過去自分に関係したデータベースが頭の中にあって、例えば特定の人物の音声の周波数特性は、雑騒音の中から選別して情報を得ようとする時、自分のデータベースと比較しながら聞き取る事が出来ると言われます。
ですから、雑踏の中に過去データが無い場合は、聞き取る事が出来ない訳です。
自分の名前は過去データに属しますので、周波数特性が異なっていても選択的に聞く事が出来る
とされます。
雑踏騒音の中で特定の情報を聞きだす場合、断片的に聞いてこれを脳内で欠落部分を創造して
聞けた気分になっている
・・との研究結果も存在します。

何度も聞きなれたCDソースの場合は特定の場所の音質についてデータベースに蓄えがあれば
過去データと現在を一瞬にして比較し、現在の音質を自動的に判断している・・
これも一種のカクテルパーティー効果かも知れません。
ですから、オーケストラなら特定の楽器だけ抽出して聞いて判断する事も出来ます。
これに自分の好みの傾向が加わり、良し悪しを判断する訳です。
優れた評論家など、この特定の音質を1ヶ月単位で覚えている人物が居ります。
このような人物は、絶対的な音質判断が出来るようです。筆者には怖い存在でした


絶対音階が聞き分けられる人は、音質にシビア・・とも言われます。
筆者は相対音階しか聞き分けが出来ませんが、有名な音楽家は絶対音階が分かる人が多い様です
この良し悪しの判断基準は、民族によってもかなり大きく異なります。
この傾向は、自分が住んでいる地球環境に従って、民族の文化として形成して行く中で傾向性が
形成される・・これが筆者の体験です。
例えば、アメリカでも西海岸と東海岸では、明らかに嗜好が違っております。
西海岸では、乾燥した青空が年中広がっておりますが、その場にベストマッチする音質傾向が
あり、日本人好みの音を作って持ち込んでも拒否されるだけです。

更に、同じ日本人同士でも10人居れば、その内の2人程度は、他の人々とまったく逆の反応を示す事が、統計上も知られており、この事は世の東西を問わず必ず発生する現象です。
従いまして、万人に好まれる音作り・・は、極端に申せば絵空事である次第です。
これは筆者が3大陸で、同一評価環境下で音の嗜好傾向を探った結果です。

少し ご紹介しましょう・・特にアメリカ人は豊かな低音を強烈に好みます。
この豊な・・と言う処がくせ者でして(笑) つまり「ど~ん!」言う低音があったと仮定しましょう。 彼らは、これでは低音不足とジャッジします。 
言葉で表現すれば「ど~ん!うん!うん!」とど~ん!の後に尾ひれがつく低音感を要求します。
締った低音感などと表現する低音は、低音不足とジャッジされます。
これに加えて、言葉で表現するなら、英語で言うブリリアントと形容される高音が必要です。
日本語で言えば、キラキラ光る・輝くような高音と申せましょうか・・


これはUSAの西海岸に特有の音質傾向です。(俗な言葉ではドン・シャリ音)
この音質はカリフォルニアの風景に、ものすごくマッチします。
この解説で、某メーカー製スピーカーの音質が想像できる方は、Audioの通ですね。(笑)失礼
日本人には向かない様ですが、中にはこのような傾向を好む方もいらっしゃいます。
この手?の音質で長時間聞くと、筆者の場合は疲れますが・・。


総括すれば、パンパ系(草原)とモンスーン系と砂漠系で、好まれる音色にかなり差が有る様です。その意味では、音楽の都であるヨーロッパの人々は厳しい音質評価能力を有しており、
イギリスのBBC放送局で使われているモニタースピーカーの音を聞くと、素直に納得できます。何のヘンテツも無い普通のスピーカーが、このすごく音質が良かったりします。
筆者は、ヨーロッパで買ったラジカセが、日本のAudioコンポより高音質だった・・と言う
信じられない体験があります。(確かPhilips社製と記憶)

生の音楽現場で鍛え上げられたAudio機器は、設計上でも音質上の物理的な特性の壺を、確実に
制御した設計が成されている・・と感じます。(何処かの高速道路を走る車の設計に通じます)
特に彼らの設計した、製品の内部実装状態を見れば、納得が行きます。
良い設計とは、物理的にもきちんと筋道が通った設計が成されおり、どこかの他国を平気で脅かすニセ物好きの国で設計された超粗悪品とは、本質的な次元で違いがあります。(爆笑)

我が国の製品設計者は、ヨーロッパの技術屋に学ぶべきものが多々ある・・と感じるのは筆者
だけでありましょうか・・(文化の香りの差は、技術力にも出る・技術者を大切にする国々)
その前に経営者ベースの問題が山積・・技術屋を平気で使い捨てにする、どこかの国。
良い品物を設計し市場供給する事を阻むのは、どこかの国では、技術の値打すら分からない
程度の低い「経営屋もどき」が横行する事例が実に多く、工業技術力低下の最大要因がこれ!。
・・と、感じる一人です。(実体験)こんな連中を排除し設計現場に任せたら、昔のゼロ戦
同じく最強の品物を作る能力を、日本人はDNAとして体内持っております。
皆様そう想いになりませんか?  リタイヤ爺爺い の つぶやき(妄想)・・でした。

今回もお付き合い賜り ありがとうございます。これにてお開きにさせて頂きます。


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